まだまだ、練習中カプですが、せっかくなのでお誕SS書きました!
前に書いたのより、アレクがまとも!
(あー……)
実際、まったく心当たりなく本気で驚いてもらえるようなサプライズを仕掛けることは大変だ。何となくいつもと違う雰囲気を察してしまうものだと思うのだ。リアリティショーの類いを見ていても、友達の仕掛けを手伝ったりする時でも。
だからテイラーは今日が自分の誕生日前日であり、オフの前日でもあることをはっきり自覚していたので(けして心待ちにしていたわけではないけれど)、ニコニコ顔のスタッフ達がこそこそ話をしながらこちらを取り囲むように近づいて来たところでその先の展開を察してしまった。
つまり、もうすぐ彼等の後ろからワゴンに乗った大きなバースデーケーキが現れるだろうし、クラッカーも鳴らされるかも知れない、ということを、だ。
もしかすると、もう少し困った悪戯が仕込まれているかも知れない。
現場の中の立場的にも大いにあり得る。たとえば、クリームいっぱいのパイを投げつけられたり、ケチャップのシャワーを浴びせられたり。まあ、盛り上がるっていうんなら仕方が無いな、と諦めのつく余興だろうし覚悟もできているが、今日はどうだろう?
テイラーは少し緊張しながら、サプライズ、を待ち構えることにした。
顔には出ていないかな?きっと大丈夫だ。
「ハーイ!みんな集まって!」
ああ、良かった。どうやら幹事は共演のレイチェル・マクアダムスに託されていたようだ。彼女ならきっと男子学生のようなノリでパイを投げては来ないだろう。テイラーはほっとして頬が緩むのを悟られないように、眉をひょいっとあげてから、大げさに肩をすくめて見せる。
少し鼻にかかった甘くて明るい声がスタジオ中に響けば、お待ちかねのワゴンが到着だ。
目の前に現れた生クリームで覆われた大きなケーキにはメイプルリーフと『34』の大きな文字、ご丁寧に34本分のキャンドルも刺さっている。嘆くような年でもなければ、はしゃぐような年でもないので、大事にして欲しくなかったのが本音だけれど、それを口にするほど子供でもない。
スタジオの雰囲気が良いのは歓迎すべきことなのだから。
「オーケイ……」
こう言う時は思い切り喜んで、笑って、盛り上がるべきだということはそう長くもないキャリアの中でしっかりと学んできたことだ。
隣で若干の苦笑いを浮かべた、同じく共演のコリン・ファレルから肘で小突かれながら、調子外れたバースデーソングを聞き終えるまでに願いごとを考えなければならない。
誕生日の願い事は昔から他愛もないことがほとんどだった。ホッケーチームのレギュラーに選ばれますように、だとか、毎日ママが好物のクッキーを買ってきてくれますように、とか、そんな感じだったと思う。小さい頃はずるをして何度も息継ぎをして全部の火を消したりしていた。
それこそ誕生日どころじゃなかった時期もあるし、こんな風に撮影中に皆に祝ってもらえるのは幸せなことだ。
よし、大丈夫だ。
テイラーはくるりと目を回して、悪戯っ子のような表情を作ると、隣を小突き返して、満面の笑みを浮かべた。
そうだな、ええと、今日は。
今、何かを願って叶うのだとしたら……。
願いごとは、ただ一つ。
どうか、どうか。
時計の針を二日分、戻して下さい!!
*** *** ***
「調子に乗って食べ過ぎるからだ」
多分、テイラーが今一番長い時間を一緒に過ごしているのは彼だ。学生の頃からと考えるとすっかり長い付き合いになったニールが呆れた顔でこちらを見ている。うるさい、とうなり声混じりで返し、顔をしかめたテイラーは胃の辺りを抑えたまま頭を振った。
レイチェル一押しのパティシエの作だというケーキはとてもとても美味しいものだったが、まさにニールのご指摘通り、場を盛り上げるために相当の量を食べてしまった。明らかに許容量オーバーだ。
「……なあ、モバイル……どうなった?」
しかし、テイラーには胃もたれよりも何よりも重大な問題があったのだ。それが、ろうそくの炎を吹き消した時に願ったことの理由、でもあるし、いまいち素直に誕生日の祝福を受け入れられなかった原因でもある。
誰にも悟られていないといいのだけれど。
「すぐに修理には出したけど、しばらくかかるって五回ぐらい言ったよな?」
二日前の朝、テイラーは肌身離さず持ち歩いている大切なモバイルを、ふとした油断だったのか落としてしまい(それだけならよくあることなのだけれど)、それに慌てて思い切り蹴飛ばしてしまったのだ。
それも、まあ、今までなかったことではない。
ただ、人にはごくごくたまに、信じられないほど運の悪い日っていうのがあって、それがしょっちゅうなのか、滅多になりことなのかは個人差はあるだろうが、何をやっても上手く行かない、良かれと思ったことが全部裏目に出る、テイラーにとってその日がそうだった。
アスファルトの上を二、三度跳ねたモバイルの上を、見知らぬ誰かの自転車のタイヤが轢いて行き、後輪に弾かれたそれは道路脇の水たまりへと滑って行ったのだ。
アーメン。
その一部始終をテイラーは間抜けにも見送ることしかできなかった。
「……わかってるけど……」
当然、画面は粉々に割れてしまったし、データも多分復旧するのは難しい、とは言われている。少し前まで使っていたモバイルはオースティンの家に置きっ放しで手元にない。
つまり、今のテイラーは自発的に誰かに連絡することもできないし、受け取ることもできない状況にいるということだ。
深夜便でオースティンに行って、明後日までに戻ることは可能だけれど、どうするべきか決めることができないでいるのは、明日が自分の誕生日だからだ。
何でもない日なら、むしろ考えずに行動を起こせたかもしれない。
無駄な自意識が行動を阻んでいるのを見透かすように、ニールは目を細めてこちらを見た。
「とりあえずプリペイド、買ってきてもらっただろ?」
「だけど、おまえ、俺の番号覚えてる?」
「ああ」
即答かよ、とテイラーは眉間に皺を寄せてニールを睨む。もちろん、八つ当たりなのだけれど。
「……俺は覚えてないんだよ」
かろうじて、実家のは覚えているけれど、あとは登録に任せて名前を検索するだけだ。多分ニールが珍しい例で、他のみんなに聞いても自分と同じようなものだろうと思う。親友であっても、恋人であっても、番号を空で言える人は今の世の中、そんなに多くない。
しょっちゅう電話番号を変える俳優稼業の人間の番号なら、なおのことだ。
と、思う。
「へえ」
ニールは何かを察したのか、わざとらしい相づちを打つと、テイラーの背中を手の平で叩いた。大して強くもないのに足元がぐらついたのは、動揺が続いているせいだろうか。
自意識過剰のせいかもしれない。
「帰る」
「はいはい」
ママからの誕生日おめでとうのコールを受けられないから、こんなに落ち込んでいるのではない。あちこちにいる友人から飛んでくるテキストにすぐ返事ができないから、困っているわけでもない。
ただ、もしかしたら、連絡をくれるかもしれない相手のことを考えると、胸が痛くなるというだけだ。
気をつけて帰れよ、のニールの声に二度ほど頷いたテイラーは肺いっぱいの空気をすべて押し出すようなため息をついて、ヘルメットをかぶった。どうせ何の予定もないのだから二時間ぐらい愛車を走らせれば気が晴れるだろうか?
「……別に、喧嘩とかしたわけじゃないんだけどな……」
その相手。
彼とは。
ここのところ、タイミングが合わず声をほとんど聞くことがなかった。短いテキストのやりとりも、毎日ではなかった。撮影に入ってしまえばお互い様で、特に断りを入れるような関係でもなかったけれど。
何だかんだ言って、誕生日は毎年一緒に過ごしていたから、今年もきっとそうなるだろうな、と当然のように考えていたのだ。
寂しい、だとか、会いたいだとか、うまく言えたことなどほとんどないのに、こんな時ばかり都合の良いことを考えてしまう自分が嫌いになる。
今頃、彼は何もかも忘れて楽しくお酒を飲んでいるだろうし、電話がつながらないことにも気付いていないだろう。きっとそうだ。
だけれどそれを確かめるすべがないのがテイラーを憂鬱にさせているのだ。
「ああ、まったく!なんで俺がこんなにイラつかなきゃなんないんだ!」
結局スタジオを出て、五分も走ったところでテイラーはバイクを止め、路肩に寄せると勢いよくヘルメットを脱いで、プリペイド携帯を取り出した。
よく言うだろう?プリペイド携帯は追跡されないって。
だからこうするしかないと思った。
「……あー、ハロウ?……、すみません、間違いました……」
テイラーはうろ覚えのイメージでしかない彼の番号を手当たり次第に押しはじめた。こんなことは二度としません、と誰かに誓って、次の番号を押す。
アウト・オブ・サービスが二件続き、次は子供の声。
老婦人に、ティンエイジャーらしき少女の声。
HelloとSorryをくり返すこと、九回目。
『Hello?』
長いコール音の後、聞き覚えのある、少し高めのトーンの響き。
あたりが騒がしいのはわかったが、声ははっきりと聞こえた。
「……アレク……?」
逆にこちらの声が掠れてしまったのだけれど、
『テイラー?!』
彼もまた、すぐに気がついてくれたようだ。その事実にテイラーは顔から耳のあたりまで一気に熱くなるのを感じた。あたりは夕闇の中だ、誰に気付かれることもない。
「良かった!つながった!知らなかったと思うんだけど、俺、今、モバイル駄目にしてて!それで、ええと……あの……」
ただ、喜びの声を上げてその場で飛び上がりたいぐらいだった興奮した気持ちは、早口をまくし立て終えるまでに急速に萎んでしまった。
何を言っているのか、わからない。
それで何を彼に伝えようと言うのだ。
電話の向こうにいる彼の名はアレクサンダー・スカルスガルド。元共演俳優。
今は。
ええと。
どうして電話をかけたかったというと。
『さっきLAXに着いたところだよ、テイ』
「……な、なんで……?」
『テイの誕生日だから』
HBOのスタジオならよく知っているし、と続けたアレクサンダーはあくびを一つ挟み、ボイスメールに変な歌を吹き込んでおいたから後で聞いといて、と笑った。三曲あると言って、へへへと少し子供っぽい笑い声が耳の奥に響いた。
最後、彼と電話で話した時、何と言っていたか思い出せない。
適当に話半分に聞いていたせいだろう。何年経っても真剣になりすぎるのが少し怖くて、ちょっと優位に立っておきたくて、結局の所甘えていただけだ。
『テイテイ?今ここで歌う?』
「……だ、大丈夫」
『今のおまえの顔、どんな顔してるか、当ててやろうか?』
うん、と頷いたところで相手には見えない。しかしアレクサンダーは沈黙を了解の意と取ったのか、そのまま続けた。
『眉間に皺を寄せて、歯を食いしばってる』
「……正解」
彼はその表情が、
『泣くような場面じゃないだろ?』
我慢のそれだと知っていた。
「……どうかな……」
『ビルトモアに一時間後、来られるか?』
ちちち……っと小鳥を寄せるように舌を鳴らすアレクサンダーにテイラーはすぐにイエスと返事をした。ダウンタウンにあるそのホテルへは今いるここから飛ばせば20分もかからないけれど、どこかで顔は洗った方が良さそうだ。それから眉間の皺をちょっと指先で伸ばしておこう。
仏頂面で会うつもりはないし、そうだな、できればもう少し素直になりたい、という気持ちもある。
「じゃ、じゃあまた後で……」
早口でそれだけを言って電話を切ったテイラーは画面に残された、ほとんど見覚えのない番号をじっと見つめて、Thanks……と呟いた。
まさか通じるなんて。
数学のことなんて何もわからないけれど、たぶん、確率はすごくすごく低かったはずだ。
だからたぶん、今日は運が良い日なのだろう。
*** *** ***
何日ぶりのキスかなんて知らない。
「……ア、アレク?」
ただ、この少しかかとを上げる感覚はとても久しぶりだと思った。腰に長い腕を回されて、体が傾くのも、そうだ。
「ん?」
「……さっき、着いたんだよな?」
「まあ、電話もらった時はまだ空港だったしな」
何だ?と首をかしげるアレクサンダーの青い目を見ながら、テイラーは思わず下唇を噛んで言葉を飲み込む。
ただ、じわじわ熱くなっていく頬(もともと赤面が目立つのだ)を隠し通せるわけもなく、意識したわけでもないのに甘えるような上目遣いになってしまうのも、もちろんすぐに気づかれる。
言って、と鼻先をかじるような仕草で促されテイラーは観念したように喉を鳴らした。
「……飲んでないんだ?」
「いい子だろう?」
一緒に飲むのも好きだし、飲むなと言ったことはないけれど、まさか五時間以上のフライトの間、我慢できるとは思いもよらなかった。パパラッチに狙われそうなぐらい、まともな格好もしているし。
電話の通じない相手に取る態度とは、とても思えなくて、とても嬉しい。
「うん」
テイラーは素直にそううなずくと、もう少し自分から背伸びをしてアレクサンダーの唇に自分のそれを重ねた。それからすぐに口を開き、少しミントの香りのする柔らかい舌を受け入れる。
しばらく続いたキスの後、少し潤んだ瞳でテイラーはアレクサンダーを見つめ、目を細めた。濡れた唇をぬぐうよりも前に伝えなくてはいけないことがあるのだから。
「……会えて良かった……」
アレクサンダーは控えめな言葉に眉をひょいと上げて、もう一声、と喉を鳴らさずに言った。
オーケイ、わかっているんだ、本当に。
「……すごく、好きだなって……思った、ぞ?」
当然のように来てくれて、返事のない電話に向けて歌ってくれて、飲まずにいてくれて、抱きしめてくれて、キスをくれて。
全部嬉しくて、全部欲しかったものだ。
「まあ、そんなところだな、テイはシャイだから」
後は、別のやり方で聞くとして、とニヤニヤ笑いで前置いたアレクサンダーは、真っ赤になってしまった頬のてっぺんを親指でこすり、目をぐっと細めた。
「あ……」
ええと、まあ、ケーキで腹がいっぱいだし、今から出かける気にもならないけど。
うん、まあ。
それも、嬉しい。
「明日になる瞬間、キスをしていたいなあ」
俺の誕生日みたいに、嬉しい。
その台詞に去年の彼の誕生日をすっかり忘れてしまっていたことを思い出したのだけれど、謝罪の言葉はキスで封じられた。
うん。
すごく、好きだな。
———————————————————-
一日前の話じゃないか!wま、この後めくるめく展開のはずなので、それどころじゃなくなります!
(ていうか、バレンタインの話ではアレクが携帯割ってたねw)
朝チュンどころか始まる前でごめんなさ……