【X’mas Advent】1215(MIRN:ハンブラ)

「お呼びですか?」
IMFの新しい長官、アラン・ハンリーの顔にはだいたい年嵩の男が見せる、傲慢な余裕(実際にその余裕があるかどうかは別の話だ)めいた笑みが浮かんでいるのだが、今日はそれが見られなかった。
今の自分の立場は長官秘書ではない、と毎日のように言い聞かせているのだが、ハンリーはそのように思っているのだろう、毎日のように用を言いつけては呼びだすのだ。
確かに、今現在の俺はと言えば、分析官というほど資料とにらめっこしているわけでもなく、エージェントとしてどこかに潜入しているわけでもない。やっていることと言えば諸々の「後始末」だ。
彼を一応のところ味方につけることは成功し、IMFの解体も免れた。それでも「安定」しているとは言い難い。やることは山積みなのに、長官殿だけは俺のことを暇人だと思っているらしい。
もう三日も家に帰っていないのに?
「おまえ宛だ」
そんなことを考えながら彼のデスクに近づくと、彼は仏頂面で一通の封筒をこちらに差し出した。
いや、突きつけたと言った方が良いかもしれない。デスクの上でいくつかの山を作っているクリスマスカードの内、一通であるらしかった。
「へえ?」
思わず、上司に対しての敬意に欠けた返事をしてしまったのには理由がある。
まず第一に、だ。
この組織で宛先違いが起こるわけがない。もしあったとしたら、原因を徹底追求して二度と間違いがないようにしなければならない。炭疽菌入りのラブレターだって珍しくない場所なのだから。
まあ、つまりだ。
これは故意に彼が俺宛の郵便物を受け取ったということになる。
「……英国首相からだ」
面白くなさげにそう白状したハンリーは椅子の背に恰幅の良い体を預け、そのままくるりとこちらに背を向けた。
第二に。
この封筒の封は開いたままになっている。元はCIAの長官、現役時代は優秀な諜報員だったろうハンリーがそんなミスをするはずがない。というわけで、これもまた故意だ。
ずいぶん姑息な手を使うじゃないか。
まるで子供だましだ。
「へえ、ベルベッド地に金の箔押しか。さすが」
俺はそんなことを聞こえよがしに口にすると、カードを開いた。
そこにはごくごくまっとうな、クリスマスカードに書くべき文が記されていたのだけれど、ほんの二行ばかり、書かなくても良いようなことも。
少し癖のある文字を目で追った俺は、眉をひょい、と上げた。
おや、まあ。
そう言った感じだ。そこにはイギリスに来た時には必ず声をかけて欲しいと、書かれていた。それから、プライベートだろう電話の番号も。それは後で、確かめてもいいし、確かめなくてもいい。
そういう番号だ。
「わざわざ、お知らせありがとうございました。誰かに持って行かせれば良かったのに」
ハンリーはこちらに背を向けたままだ。このクリスマスカードに含まれた「他意」について彼がどう思っているのかはわからないが、明らかに気分を害している。
どうやら思っていた以上に気に入られているらしいぞ?
さて、どうするか。
「他に用事がないようでしたら、これで失礼します」
仕事は山積みなのだ、クリスマスカードの分類分けはお一人でやってもらうことにして、俺は彼に背を向けた。
「ブラント」
あと一歩で外に出るぞ、とドアノブに手をかけたところで、声がかかる。ずいぶんと粘ったじゃないか。
「はい?」
肩越しに振り返ると、ハンリーがこちらを少しばかり真剣な目で見ていた。
へえ、あんたそんな顔もするのか。
なんて言ってやったらどうなるかは、まあ、想定はしているけれど。
「……それで、クリスマスの予定は?」
なあ、本当にCIAの腕利きだったのか、と尋ねたくなるぐらい、その台詞は当たり前で面白みもない定番だ。それでも、その単純さが「真剣」さを演出するには十分だ。
怒っているようにも見えるハンリーの表情は少し強ばっているように見えたが、あくまで「いつも通り」を装っている。だからブラントもいつもの瞼を重たそうにした、半目で振り返りこう答えた。
「それは長官に聞いてみないとわかりませんね」
するとすぐに少しばかり放送コードに触れるような言葉が返ってきた。

それから、たぶん、こう続けた。
ハレルヤ!

何を大げさな。
ただ、食事をするだけかもしれないぞ?

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まだ、キャラ模索中だけど、初ハンブラ書きました。