【Alex/Kitsch:RPS-AU】Kinda Hot 【連載02】

Act.02

RPS-AU
アレクサンダー・スカルスガルド×テイラー・キッチュ
LAでレストランを(ゆる)経営するアレクとクラブのバウンサーのキッチュのお話。

 

ロサンゼルス、ウェストウッドとブレントウッドハイツのほぼ中央にある、退役軍人病院、通称VAが青年の職場だ。
名前はテイラー・キッチュ。
夜の十時から二時まではサンタモニカのクラブのバウンサーとして働き、朝の九時から昼の五時までは入院患者の付き添い人として、この病院に勤めている。
担当をしているのは三人ほどの患者で、そのほとんどが四肢のどこかを損傷している重篤患者だった。人手が足りず、多少の心得のあったテイラーはリハビリなどの補助まで任されることもあった。
とても、楽な仕事とは言えなかったが、今のところ他に当てもない。
革のジャケットをうす水色のスモッグに着替えてしまえば、誰が彼がバウンサーをやっているような人間だと思うだろうか。
今のところ、見知った顔を敷地内で見かけたことはあっても、気付かれたことはなかった。だいたい顔を上げて歩いている時間の方が少ない。
同僚達のほとんどは英語よりずっと得意な母国語でしゃべり合っていて、あえてあまり愛想が良いとも言えないテイラーにわざわざ話しかけてくるようなことはなかった。
「無理に夜も昼も働くことないだろうに」
あくびをかみ殺していると、ベッドから声がかけられる。
この病院には三度目の入院となる初老の男、ブレンダン・グリーソン、元陸軍上級曹長は呆れたようにテイラーを見ている。厳密に言えば今テイラーが彼を担当しているわけではなかったが、一度目の入院の時につきっきりの担当を任されていた縁もあり、彼を見舞うために少しの空き時間のたびに顔を出すようにしているのだ。
「他にやることないんだよ……」
はあ……、と重たいため息をついたテイラーはベッドサイドの椅子から立ち上がり大きく伸びをした。UCLAにほど近いこの病院は、学生達のはつらつさと隔絶されたような存在だ。
清潔で、十分に広い敷地、最先端とは言わないまでもそこそこの機材や医師、スタッフの揃った巨大な病院だと言うのに、晴れた空の下でもどこか薄く影が引かれたような暗さをまとっている。
他の人間がどう思うかは知らないが、少なくともテイラーはそう思っていた。
「説教するならもう来ないからな」
「なんだ、おまえさんが寂しくてきてるのかと思ったぞ?」
「うるせえ」
何度も被弾をして、瀕死の状態から蘇ってきたというのはブレンダンの自慢話の定番だ。テイラーはその話をそれこそ百回ぐらい聞いて、そのうち半分ぐらいは聞き流したが残りはそれなりに聞いていた。
今はその後遺症による激痛に苦しみ、心臓疾患を併発しての入院となっている。朝と夕方、時間外にテイラーは彼のリハビリのためのウォーキングに付き合っていたが、あまり良い状態とは言えないのだろう。
それでも、自分が傍にいる時だけは、彼は陽気におしゃべりをしてくれるのだ。どちらのためになっているのかわかったものではないが、テイラーはこの時間を大事にしている。
悪態はついていても、だ。
「昨日、ちょっと……絡まれてさ」
「客にか?」
「いや、店の向かいのレストランのシェフ……前に見られてるって言ってたやつだよ」
シェフっていうのか、そうは見えないけど。
やたらと背が高く、手足の長いブロンドの美形だった。それこそ店に毎晩のように入り浸っていてもおかしくないような風体で、もしそうなっていたら連日女性客が群がるだろうこと、間違いないと思うほど華やかな容姿をしていた。
「大丈夫なのか?」
「あ、うん。大丈夫……」
もうずっと、彼の方から視線を向けられることには気がついていて、ブレンダンにも何度か愚痴っていたものだから、すぐにその厳つい顔がくしゃっとなって心配の表情に変わる。
彼は鬼軍曹だとか、厳しい教官だったこともあると聞いていたが、今や少し寂しがり屋の気の良い親父でしかない。
「名前を教えただけだよ」
それから、食事に誘われた。
断ったけれど。
「まあ、おまえさんは腕っ節も強いから心配ないだろうが、気をつけるんだぞ」
「わかってるよ」
テイラーは肩をすくめて、腕時計がピピっと小さな電子音を鳴らしたのを合図に「仕事に戻るよ」とブレンダンに告げる。今日は長い麻酔から目を覚ましたばかりの若者を担当することになっている。
きっとここがロサンゼルスだということも知らず、目を覚ますのだ。
毎度のことながら、気が重い。
彼は誰の名前を一番最初に呼ぶのだろうか。
「食事だってさ……」
病室から外に出て、廊下を歩きながらぽつりと呟いた声は誰にも聞こえなかったが、テイラーは自嘲気味に口元をゆるめ笑みのような形を作る。
昼に夜に働き続けることは苦ではない。家に帰ったところで眠る以上にやることもない。
だけれど、そのせいで人付き合いはずいぶんと希薄だ。
だから、あんな美形に食事に誘われたところで、話題が見つからない。この病院で起きるあれこれを話して聞かせたら、たとえ熱い恋のお相手でもご破算になることだろう。
ここはそんな場所だったから。
テイラーは「ふられたことがない」と言い切った男の顔を思い浮かべながら、ナルシストめ、と悪態をついておくことにした。
親しい相手は、なるべく少ない方がいい。
それがテイラーの選んだ生き方だったのだ。
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タイトルと合ってないにも程がある……
次から、テンポはよくなる予定……です!

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