【X’mas Advent】1207(RPS-AU:Viggo/Sean)

“Let’s dig in” Ver.
三枚ほどの便せんに書き付けた文字を彼は何往復見返したのだろう。
「なあ、ヴィゴ……?」
ショーンがそれを彼に手渡してからすでに二十分は経っていると思う。その間、ショーンはカモミールティーとヴィゴの分のコーヒーを入れることが出来たし、軽く上半身のストレッチも済んだ。
さて。
どうしたものか。
「んー……ん、ん、ん……」
頭の良く、機転もきくヴィゴが眉間に皺を寄せて、唇を引き結んで(さらに、左側にぎゅっと力を入れている)難しい顔をしなければいけないほど、難解なことを書いたわけではない。
ブログに載せているような程度の文章で、二週間後のクリスマスパーティーのために考えたメニューが書いてあるだけだ。
オーソドックスなのと、少しコンテンポラリーなのと、もう一つはデザートだけのメニューリストだ。我ながらよく出来ていると思うのだけれど、ヴィゴはずっとこの調子だ。
「ヴィゴ」
腹が立つというわけではないけれど、毎日美味しい、美味しいとあれだけ言ってくれているのにどうして渋面なのかがさっぱりわからないのだ。理由があるのなら、言ってくれれば対応はできる。
黙っているつもりなら、こっちにも考えがあるぞ?
伊達に何年もトラベルメーカーをやってきていない。
腕っ節には自信があるんだ。
「……その、パーティーの時の食事なんだが……ケータリングに頼むはどうかなって……思ったんだ……」
こっちが下を向こうが、背中を見せようが、じーっと熱い視線を送ってくるくせに今日に限っては視線を逸らしたまま顔を上げようともしない。
「ふぅん……?」
フィンガーフードの種類が足りないと言うのなら、あと四品はすぐ考えつくし、とろとろのツナだって市場に必ず仕入れてくれるように脅しをかけてある。
生ハムだってこの間ありったけの試食をして一本選んだんだぞ?
羊のグリルが嫌なら、鴨にしよう。
さあ、どうだ!
と、まあ、言いたいことを全部飲み込んで一言、相づちだけを返したショーンにヴィゴはようやくはっとなって顔を上げた。
「ち、違う!そういう意味じゃないんだ!」
「そういう意味って?」
「あ、いや……その……」
そんな低い声聞いたことがない!と涙目になるぐらいなら、何だっておかしな態度を取るのだろう。ショーンは胸の前で腕を組んで、ヴィゴの顔をじっと見つめる。
半分ぐらい目を細めているから、睨んでいるように見えるかも知れないが、それもこちらの計画通りだ。
さて。
言い訳は好きではないが、どうやって申し開きをするつもりなのか、聞いてやろうという気持ちでショーンは顎をくいっと上げて、ヴィゴを促した。
「初めてのクリスマス……だろ?」
その、俺達、二人のさ。
そう続けたヴィゴにショーンは、二度ほど頷いた。何を当たり前のことを言っているのだろうか?と首をかしげたくなったが何とかこらえた。
「で……、その、クリスマスディナーの時に作って欲しいというか……」
ヴィゴは言葉を扱う仕事に就いているとは思えないぐらい拙い言い訳をぼそぼそと口にして、世界で一番ショーンの作る飯は美味いってわかってるけど、と消え入るような声で呟いた。
「何言ってるんだ、一番はママだろ」
「うー……」
さて、頭の中身がゆるいと言われる俺でもこのケースは理解出来たと思う。
「おまえがホストのパーティーなんだ、作らせてくれよ」
それで彼の仕事が円滑に進むのならば、パートナーとして腕を振るう価値があると思う。もちろん、報酬も頂くつもりだから、これはプロとプロの契約だ。
いいか?
わかったなら次に進むぞ?
「で、クリスマスの夜は……おまえのためだけに作る」
二人の食事にカナッペがいるか?
答えはノーだ。ターキーは先月で勘弁だから、ローストビーフにしよう。ゆっくりとワインを飲みながら、。おしゃべりをして、体が温まるような食事のためのご馳走にするよ。
スープだって気取ったコンソメより、具だくさんなチャウダーが好きだろう?
「……くだらないことを言ってごめん……」
「わかってるならいいさ」
ショーンは優しいな、と呟いたヴィゴはがっくり肩を落として小さくなってしまった。今更ながら自分の狭量に気づき落ち込んでいるのだろう。
ショーンとしてはこんな些細なことでも彼の愛情の強さを知ることが出来るのは悪くないとは思っているが、そうだな、二十分は悩み過ぎだ。少し拗ねたら、後は任せてくれないと。
「で、どっちにする?」
「……会場がギャラリーだからな。コンテンポラリーで!」
試験管料理ほど前衛でもないけれど、面白い料理をスペイン人の料理人に教わったから、それを応用出来たらいいと思っている。メニュー自体は気に入っていただけたようで、顔がだんだん気むずかし屋のそれから、美味しそうだな、と想像する顔になっている。
「……ん?」
「俺は……その顔が楽しみでヴィゴに美味しいものを作ってるんだ」
ヴィゴは顔?と眉を上げて見せたが、すぐに耳の方まで顔を赤くして、照れ出す。
あまり甘やかすのは良くないとシャーリーズは言ったりするのだけれど、これも一つの楽しみではあるんだ。
「今晩のメニューは何だと思う?」
ヴィゴは照れを隠すように髪をかきあげ、俺の好きなもの?と気取って見せるが、嬉しそうに頬が緩んでいるから台無しだ。
「ビーツサラダ、ポテトパンケーキ……」
それから、
「にせものウサギ!」
定番のデンマーク料理の三品にヴィゴの表情はぱっと明るくなった。合い挽き肉で作るシンプルなミートローフもそうやって呼べば、何だかとても楽しげに聞こえる。
子供の頃、よく食べていたのだと笑うヴィゴにもう嫉妬の色はない。
ショーンはほっとした気持ちを顔には出さず、よしよしと彼の頭を撫でてやることで、伝えることにした。
ごめん、はいらないぞ。
だから、ハッピーなクリスマスを楽しもう。
「パーティーまでが大変なんだからな」
「まったくだ」
プレゼントリストを埋めるため、週末はメイシーズを駆けずり回ろう。それもまた、二人で過ごすクリスマスの一部さ。
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デンマークと言えばブタ料理らしいだよね。
食べたい、食べたい!

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