Valentine Day

<本編見てない方、ご注意><あと妄想がほとんど>

「…・・・朝から上機嫌だな」
NFLの狂騒も落ち着き、これからがオフ本番だ。しかし、当然のことながらベテラン選手であるショーン・ジャクソンにとっては4月のドラフトまでは落ち着かない日々が始まる。去年ほどナーバスでもなかったが、浮かれてイビサに行く気にはなれない。
しかしながら、恋人のハッピーな気分に水を差すわけにもいかない。ちょっと落ち着いてほしい、バカンスは4月以降でもいいじゃないか、それだけを伝えたいだけだ。
完璧な恋人にそれがわからないはずがないのだけれど。
「いいじゃないか。一周年なんだぞ?」
カミングアウトした日から、とも言えるし、一度は自分の元を去った恋人が戻ってきてくれた日、とも言える。それからの人生はすこぶる順調だ。いまだに夢かと思うほど。
「……まあ、そうだけど」
だからだろう。
ショーンは黙ってはいたし、隠してはいたが、の数日前の別れの記憶のほうがいまだ色濃く思い出してしまうのだ。ハッピーであれば、あるほど。
新しいミネソタでの生活は当然悪くなかったし、成績も上々だった。カミングアウトして減ったファンの数の三倍ぐらいの理解者とサポーターがついた。まったくもって悲観する要素は何一つない。
それなのに。
なんて根暗なんだ。
「ショーン?」
いつだって優しい男は、今日も優しい。そうだな、少しだけ狭量になったけれど(チームの若手を家に招待したら三日ぐらい機嫌が悪かった)、それでも優しい。
それから、とてつもなく賢い。
ともすると、賢すぎるぐらいだ。
「じゃあ、シスコに行こう」
いまだに両親とは連絡が取れていない。手紙の返事もないし、電話も来ない。時間が解決するとは言っていたが、じわじわと影を落としているのは確かだ。そのせいで、悪いことばかりを考えてしまうのかもしれない。
彼はそれを察して、サンフランシスコの両親の元へ行き、和解をしようと促してくれているのだ。
本当に彼は賢くて、優しい。
「あー……ホールデン?」
ええと、その。
嫌だと言いたいわけではなくて、と言葉を探しているとホールデンの指先が頬を撫でる。それから、頬とこめかみと、耳にキスが落ちる。
「君が嘘つきだとは言わないけど」
「うん……」
「……言いたい言葉を我慢してることが……多いと思うのは、気のせいかな?」
ホールデンの言葉にはこちらを責める響きはないが、ショーンは及び腰になってしまう。瞬きをして、笑顔を向けてはいるけれど、眉根が寄ってしまう。
泣きそうに見えるかもしれない。
そんなことはないのに。
「いや、ホールデン……」
「ん?」
「俺は、たぶん、まだ怖いんだ、きっと……」
うん。
そうだね。
「ホールデン。俺はおまえにまた嫌われるのも怖いし、両親に嫌悪の目で見られるのも怖い。それに、フットボールができなくなるのも、何もかも怖い……」
「ショーン、君と出会ってから一度も……嫌いになったことなんかない。愛しているから、辛かったんだ」
一度もない。
その強い口調と、ブルーアイのまっすぐな視線を受け止めて、大きな体を縮めているのが恥ずかしくなるが、まだ勇気が足りない。長年の隠し事に守られていたあの感覚が懐かしいとは言わないが、後ろを振り返るのが怖くなることはなかった。
なんて弱い。
「ショーン?」
「……うん……」
ごめん、という言葉はキスで止められた。そして、ホールデンは少しずつ青い目を潤ませて、頭を横に振る。
「君のお父さんから、電話があったんだ」
「……え……」
「オフィスに」
知らなかった、と目を丸くするショーンにホールデンはしっかり頷く。
「父親は上手く息子と話せない時がある、彼はそう言ったよ」
それから、
「全試合、残さず見ていたと伝えて欲しいと」
「……まさか、だって、父さんは寒いのが苦手だったのに……」
オープン戦も大学生との練習試合も全部、とホールデンは続けて、喉の奥でくつくつと笑った。
「チケットを贈ったのに、全部自腹で見たって言われたよ。ショーン、お父さんは君に似てとても頑固だ。エアチケットも受け取らなかった」
それから、
「とてもチャーミングだ」
と言ってホールデンは片目をつむる。もう涙の色は見えない。
「君に会いたくて仕方がないのか、一度電話をしたら、もう五回も催促の電話がかかってきてて、困ってるんだよ。テキストだって、ほら」
犬を飼ったなんて知らなかった。
ママのその髪の色、どうしたんだ!すっかりブロンドじゃないか。
学生時代、乗っていた車もまだガレージにある。
「……こんなメール、寄越してきたことなかったのに……」
「おかげで俺は息子自慢と、牽制をされる羽目に。はしばしにおまえはまだ認めていないぞって言われているようで、困っているんだ」
できれば、反論したいし、今度はどのホテルチェーンを買収すれば認めてもらえるのか、教えてもらいたい。
かなりの優良物件だと思うんだけど。
「ホールデンよりいい男なんているわけない!」
「もっと言って、ダーリン」
最高の気分だ、と笑うハンサムのモバイルが、また震えた。
まさか、と思って覗きこむとそこには自分の幼い頃の写真が添付されたテキストが届いていた。こんなかわいいショーンを知っているのは俺だけだと自慢しているらしい。
それなら、俺に一言、とは思うのだけれど。
今まで父親との対話で自分をごまかし続けていたことを思い出すと強くも言えない。
「オーケイ……、来週末はシスコだ……」
「そう来なくっちゃ」
じゃあ、お父様には俺から、とホールデンは肩をすくめて片目をつむった。
「君の怖いものを俺は少しずつ減らして行けるかな?」
「……君が一番怖くなるかな?」
でも、
「それなら……たぶん最高に幸せなことだと思う」
ホールデンは両手を挙げて、にっこりと微笑んだ。
「その前に最高に幸せになったのは俺だな」
ハッピーバレンタイン、と唇で語り、それからその長い腕でしっかりと抱きしめてくれたホールデンの腰をしっかりと抱き返し、愛してる、と耳元で囁いた。
「覚悟しておくよ、君のママがご馳走をどれだけ作って待ち構えているか……想像するだけでも、胃薬が必要な気がする」
「絶対に必要だな」
こんなに幸せになっていいのかな、という言葉は飲み込んだ。彼は最高のヒーローとしてこれから怖いものを少しずつ消して行ってくれるのだから。
その言葉を信じよう。
愛しているのだから。
「Be My Valentine」
「当然」
キスはチョコレートよりもずっと甘くて、ショーンの頬を緩ませた。
来週、父さんに会ったらなんて言おう。

やあ、久しぶり。
それから、愛しているよ、ダディ。

まずは、そこからだ。
ホールデンもさすがにそれには嫉妬はしないだろう。
きっと。
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バレンタインデー最高かー。
最高だー。
大好きな映画です。この映画のおかげでエリック・デインが何をしてても
ふふふ、このかわいこちゃん////としか思えなくなって困るほどです。
マルチプルマンでさえもな!

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