Captain America Steve/Bucky 40’s -Valentine Day-

(アメリカって、どのぐらいの時にバレンタインはじまったのかしら)

「おい、スティーブ!なんだってこんな寒い中、外にいるんだ!」
また熱を出す気か!と俺は大きな声を出した。射撃訓練場のある郊外からバスを二つ乗り継いで帰って来たと思ったら、これだ。心臓が止まるかと思った。
雪が舞う曇天の下、折れそうなぐらい華奢な体の親友、スティーブが俺の住んでいるフラットの外階段の下、そこに腰かけていたのだ。少しのことで体調を崩してしまうぐらい虚弱な彼のいる場所ではない。あちこちの排気口がこちらを向いているし、煙草を吸っている人間も多い。
「バッキー、大丈夫だから」
「何が大丈夫なもんか!」
ほら、これ使えとばかりに俺はしていたマフラーを彼の首にかけて、軽くハグをした。そしてすぐに部屋へ連れていって温めようと思ったが、スティーブは動こうとしない。
「どうした?」
「……その、バッキー?」
真っ赤な顔をしている。目も潤んでいて、瞬きも多い。これは完全な風邪だな、と俺は抱き上げてでもベッドに寝かさないと、と思ってその腕を掴もうとした、その時だった。
「これを、渡そうと思って、待っていたんだ」
ええと。
ハッピーバレンタイン。
スティーブは照れ隠しなのか、何なのかわかりにくい微苦笑を浮かべ、失敗かな、と小さく呟いた。
彼の手には三輪ほどの薔薇。少しよれたリボンが結んである。それは花屋に売っているようなものではなかった。どうにかして、工面したのだろう。花びらの色も形もそれぞれ違っていた。
「……スティーブ……」
「あ、あと、小さいけど……チョコレイトも、ある、ん、だけど……」
スティーブはしどろもどろになりつつも、まっすぐに花を差し出した手を引っ込めることはなかった。俺は一瞬何のことかわからなくなって呆然としてしまったが、今は逆にこみ上げてくるものがあって、何も言えない。
いや、でも、このままでは誤解されかねない。
「……ありがとう、スティーブ……まさか、こんなサプライズがあるとは……」
薔薇を受け取った俺は、スティーブの額にキスをした。まだ、熱は出ていないようだ。
「今日はバレンタインデーだしね」
サプライズでも何でもないよ、と少し膨れ面になったスティーブは顔を背けてしまう。確かな胃、そうなんだけど、俺にとっては思いもよらなかったんだ。気を悪くしないで欲しいし、早く暖かいところに行きたい。
コーヒーを入れるから、久しぶりのチョコレイトを半分に割って、一緒に食べようじゃないか。
「バッキー?」
スティーブは階段を四段ほど、先に上がって、そこで振り返った。
「ん?」
どうした、と眉を上げて答えると、スティーブは肉付きの少ない頬を、不満で脹らませてこちらを軽く睨んだ。
「……僕は君のことが好きだから」
それを伝えたかったんだよ。
俺は、あまりにストレートなラブコールに、再び言葉を失う。今まで、何度も口にしようとしてきたか知らない。
宝物のような言葉だったのだけれど。
耳に届くと、とてつもない幸福感で満たしてくれる、魔法の言葉だった。
「……ふふ、バッキーも……顔、赤くしたりするんだね……」
「……ま、まあ、俺だってさ……」
同じ気持ちだとわかれば、な。
皆までは言わず、俺はスティーブの歩く速さに任せて、ゆっくりと階段を登る。雪の日に薔薇なんて、きっと明日からしばらくスティーブは寝込んでしまうことになるだろう。
そこまでしてくれた理由が、好きだという気持ち一つだと言うのなら、同じかそれ以上の愛情を返したいと願う。
俺だって、好きだ。
張り合うわけではないけれど、ぽつりと呟くとスティーブがこちらを振り返った。
曰く。
「……そうだったらいいな、と思ってたよ。バッキー」
まさに天使の言い分だ、
「そりゃ、良かったな」
照れ隠しに少しぶっきらぼうになった口調にスティーブはくすっと笑うと、本当はすごく寒かったんだ、と言って肩をすくめた。

愛さえあれば?
そうだったらいいなと思っているよ、スティーブ!

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男前もやし、大好き。

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