Hawaii Five-0 Steve/Danny -Valentine Day-

センチメンタル・アニマル

昔、本土で暮らしていた頃に比べると(少年時代だったということもあったし)、ハワイでのバレンタインデーはさほど馬鹿騒ぎにはなっていないような気がする。あちこちがピンクとハートマークで浮かれてはいないし、花屋もそれほど忙しいそうには見えない。
しかし、スティーブの機嫌はあまりよろしくない。休日でも何でもなかったが、仕事もなく自分以外のファイブオーのメンバーをオフにしたのは、リーダーたるスティーブ自身だ。自分でやったこととは言え、不機嫌の理由はここにある。
このオフを一番喜んだのはダニーだったということが一番の理由になる。
わかってはいる、当然わかっているのだ。ダニーにとって最愛の娘と過ごす時間こそが、最高の愛の日、バレンタインデーに相応しい過ごし方だということは。ただ、まあ、少しぐらい自分に気を遣ってくれても良いんじゃないか、とは思ったりもする。
たとえば、カード一つ、引き出しに忍ばせるとか。
愛してるけど、ごめんな、とか。
そういう一言があれば俺の眉間の皺も減るのに、と思ってはいたが、もちろん大人げないことは十分にわかっていたので、口には出していない。
たぶん、スキップするぐらいの浮かれ具合いで帰って行ったダニーは何も気付いていないし、自分と過ごすという選択肢があることにも気付いていないのだろう。
まあいい、まあいい。
俺達はそういう湿っぽい関係なんかではないのだし。
「……俺は後悔していないぞ」
スティーブは、心から、ダニーにはグレースとの時間を大切にして欲しいと願っている。その言葉を確実なものにするために、スティーブはセルラーの電源を切り、ソファの上に放り投げた。画面を見てしまうと未練がましく何度もくり返し見てしまうので、こうしておくに限る。
セルラーの操作が未だに不慣れなダニーが積極的にテキストを送ってくるはずもない。ただ、今日という日が思いの他長く感じられるので、暇を潰すためと、ぐっすりと朝まで眠ってしまうために、泳ぐことにした。
体を思い切り動かせばきっとビールも美味いだろう。

***   ***   ***

どれぐらい泳いだのか、わからない。ただ、さすがに指先にしびれを感じるほどになると相当の疲れが出ているということになる。そろそろ止め時だ。
外のデッキチェアで一休みするかな、と海から上がった時の体の重さに顔を顰めながら、スティーブはすっかり暗くなったあたりを見渡しながらため息をついた。すっきりした気分になるかと思いきや、スイミングは逆効果だったようだ。
どっと押し寄せてくる疲れが余計に目の前を暗くする。
「夜に!一人で!泳がない!」
しかし、その闇の暗さが、大きな怒鳴り声でぱっと明るくなったのだから、疲れではなく、どうやら気分の問題だったのかもしれない。客観的に言えば、当然夜なのであたりは暗いままだ。
「ダニー?」
「俺、言ったよな?いくらおまえがシールズでわけのわからないいかれたトレーニングを乗り越えた化け物だったとしても、夜に一人で泳ぐなって」
「……シールズは化け物なんかじゃない」
「いーや、化け物だ」
一度見せた訓練内容のビデオのせいで、ダニーのシールズ嫌いはますます酷くなってしまった。彼等の頑張りを認めないわけではないと言っているけれど。
「そんなことより、なんで電話に出ないの?心配しただろ!」
あーあ、電源切っちゃってる。
ずかずかと我が物顔でリビングを歩き回り、ソファの上のセルラーを見つけて両手を挙げたダニーはその格好のまま、きろり、とスティーブを睨んだ。
そんな顔が見たいわけではなかったので、スティーブは取り繕うように笑って見せたが、ダニーには通じなかった。
「やっぱりすねてるじゃないか」
「……べ、別に、すねてたわけじゃない……」
じゃあ、何だよ?って聞かれても答えられないが、スティーブは濡れた体をタオルで拭いながら、口ごもる。
「ほら、スティーブ」
仕方がないな、と言うようにダニーは今度は両手を横に大きく広げた。ハグだ、の合図にスティーブはタオルを持ったまま首を横に振った。
「いや、でも、濡れるし砂だらけだ……」
「おまえね!なんで今日に限って遠慮するの?」
「……別に……」
「いいから、来いよ」
ダニーはそう言って彼の方から一歩こちら側に近寄ってきてくれたので、スティーブも大きく一歩踏み出すことができた。ハグというのは不思議なもので、腕の中にダニーがすっぽり収まっているというだけで、とてつもない安心感をスティーブにくれる。
こうでなければならない、ぐらいにしっくり来るのだ。
しかし、これが行きすぎると誰にも彼を渡したくない、という独占欲の極みまで行ってしまいそうになるので、なるべくは考えないようにしているが、二人きりになるとどうしても我慢が足らなくなってしまう。
相棒というだけでは足りない。
彼の親友は自分の他にもいる。
じゃあ、どうすれば良い?
「……ハッピーバレンタイン、ダニー……」
「ほんとおまえ、こういう繊細な行事むいてねえな……」
呆れた声だったが、ダニーは力強く背中に回した腕に抵抗することもなく、スティーブの背中をぽんぽん、と叩いて、額を肩口にぎゅっと押し当ててくれた。
「会いに来てくれてありがとう、ダニー」
「バレンタインだし、当然だろ?」
当然か、そうか。
「よし、やっぱりそのにやけ面がないと安心できないからな」
思わず表情を緩めると、ダニーはそんなことを言って、笑ってくれた。そして、気の利く「恋人」である彼は続けて、最高のご褒美をくれたのだ。
「なあ、スティーブ。おまえのせいで、濡れて、砂まみれだ。どうしたらいい?」
「あ、あ……、そ、そうだな、シャワーを浴びないと」
「同感だ、俺もそれしかないと思ってたところだよ」
まったく、世話が焼けるんだから、とダニーは笑って、ハッピーバレンタイン、とスティーブの頬に、子供がするようなかわいらしいキスをくれた。
当然、世話の焼ける男がその瞬間に、ギアチェンジするだろうことを想定済みなのだろう。
舞い上がった男にも、彼はとても協力的だった。

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スティーブ(猛獣)使いレベルマックスに達しつつある
ダノちゃん。
あとシールズの訓練マジ異常……!

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