“I LOVE YOU” Hiddlesworth with brothers #RPS

140223 FreePaperより

「愛してるよ、クリス。負けるな!」
道端に車を止めて、今日の夕食は何にするか決める兄弟の決定戦の取っ組み合いを観戦している男の横顔はずいぶんとお高くとまっているように見えた。
ルークとクリスの兄二人は道沿いのダイナーで済ますか、もう少し先に行った街で全員で楽しく酒を飲みながらゴージャスなシーフードを食べるか、で意見が分かれている。末っ子である俺と、君たちが良いのでいいよと人に合わせるのが美徳だと思っているようなイギリス人、トム・ヒドルストンは見ていることしか出来ない。
別にプロレスごっこをしたいわけでもないし、主張したい何かがあるほど空腹というわけでもない。
「ああ、俺もだ!」
だけど、面白くない。わかりやすくふくれ面になっているのだから、彼にもわかっているんだろう、時折こちらを伺うような様子を見せていた。そんなに誰でもに心を砕いていて(素振りかもしれないけど)疲れないのかね。
俺には出来ない。
だから、少しばかり彼には意地悪な気持ちになってしまうのだ。
「あんたのそれは世界一軽いな」
それだよ。
愛しているっていうやつ。
「……ん?」
心当たりがあるのに、それがないように見せるのが上手い人間は信用出来ない。それが俺の持論だったりする。必要な嘘があるのは知っているけれど、そういうのを当たり前のように使うのは、卑怯だと思う。
それなら態度が悪いと言われたほうがなんぼか、ましだな。
「頭が良いのかもしれないけど、俺はそういうの、どうかと思うけど」
それをずばりと言って良く出来た優しい男、である彼を居づらくさせるのもどうかと思うので、少しは遠慮してみるが言いたいことは伝わっていると思う。
何しろ、彼はとても頭がいい。
「……そうだね」
困ったように眉を寄せてこちらに笑いかけ、それから視線をまた兄の方、クリスだ、に向けてぐっと目を細めた。
そして、クリスがこちらを向いたので、ひらひらと手を振った。
「でも、僕は何度でも言うだろうね。毎日、毎晩、月に星に太陽にむかってね」
そのまま視線を外さず、彼は詩を歌いはじめる。それが少し前時代的で俺にはピンと来ないが、喜ぶ女もいるんだろう。
「……」
だけど、その詩は俺の兄に向けられていて、絶対に兄が耳にすることがない歌なのだ。
「愛している、と言うだけしか僕には出来ないからね」
「……けーはくだ」
「そうとも」
羽根がついたように軽い言葉なら、彼の耳の傍をふわりと通り過ぎるだけだ、と歌うように言ってにっこりと笑った。
彼にとっては、重たくて、拭いがたいものなのかもしれないが、そこに恨みだとか、嫉妬だとか、そういうものはないみたいだ。
ありえないね。
俺はそういうの、大嫌いだ!
「そろそろ決着つくかな?」
「ルークが勝つよ。クリスはいつもルークを勝たせるんだ」
兄ちゃんが大好きだから、と言おうとして俺は口を注ぐんだ。なぜだかはわからないけれど、クリスが彼の気持ちを知っているような気がしたから。
ルークのプライドを守る時のように、自然に、誰も傷付けないように振る舞うことをクリスは知っているような気がした。
それを上手く言葉にするほど俺は人間が出来ていないし、わざわざ口にして何の恨みもない(ほぼ八つ当たりだ)彼を傷付ける必要はない。
「よし、シーフードだ!」
ルークがガッツポーズのままその場で飛び跳ねる。クリスは大笑いしながら草っぱらに転がって、持久力がないんだ、と責められていた。
「だからきちんと食べないとな!」
そんな降参ポーズでそれに応じるクリスを見る彼の目は、慈愛に満ちていて、軽薄さの欠片もなかったけれど、俺はくり返した。
「……あんた、けーはくだよ」
「ああ、本当に」
それでも彼は口元の笑み一つ崩さず、久しぶりに兄弟で存分にじゃれ合う、愛しい人を見つめ続けていた。
俺には、絶対に。
無理だと思った。

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