140223 FreePaperより
散乱した酒瓶。
それから、使用済みのスキンがいくつか。この数は少し胸が張れるな、と思いながらヴィゴはこらえきれない笑みを漏らす。尖った歯が覗くその笑い方を初めて見た時のショーンの顔はひどいものだった。心底残念そうな表情で首を振った。
いわく、ハンサムが台無しだ、と。
のっけから彼は何の気なしに人を褒めて、こちらを夢中にさせやがった。ヴィゴはそんなことを思い出しながら横向きになってこんこんと眠る愛しのショーンの背中に音を立ててキスを落とした。まあ、これぐらいじゃびくともしないが。
昔は嫌いだったセルラーも今やMacを持ち歩くのと何ら変わらない。抵抗感が薄れ、便利なところだけを上手に利用させてもらっている。つまり、通話には出たい時にだけ出て、テキストも見たい時に見る。だけれど、こんな風にエアチケットの時間変更なんかではその便利さの恩恵を受ける、というわけだ。
ヴィゴはにやり、と笑ってあと二時間後に迫っていたフライト時間を夕刻に変更し、セルラーを床に放り投げた。
大理石が敷き詰められているはずのそこには昨日の夜脱ぎ散らかした服がある。おかげでセルラーの画面には一筋の傷もつかない。
乾いた肌を抱き込むようにして、ヴィゴは悪戯を思いついた、というようにくすくす笑いながら自分の腰をぴったりとショーンのそれに重ねた。もう一枚、スキンが必要な気もするがそういえばショーンが意識を手放す前からすでに足りていなかった。
彼は「何か変な酒でも飲んだのか」といぶかって最初は抵抗するほど、ヴィゴのそれはやんちゃをしたがっていて(久しぶりに会ったからだよ、ダーリン)、それは寝起きの今も変わらなかった。それどころか、酒が抜けたせいでより勢いと固さを増している気すらする。
いい調子だ、と片頬を上げた。
ベッドメイキングもしばらくお預けだ。
「……ヘイ、ダーリン……起きろよ……。愛してるよ……」
耳たぶをついばむようにしながら囁くと、腕の中でショーンが身じろぎした。ようやく事態を飲み込んだのだろう、くそったれ、という悪態は熱い吐息に混じって消えた。ヴィゴがそれに構わず、すっかり熟れて開いた箇所にペニスを埋めて、ゆすゆすと腰を前後に動かして、昨夜の時点で腫れたようになってしまった箇所をゆっくりと押し開いていく。
そうだな、まだ後始末をしていなかった。
ヴィゴが舌なめずりを思わずしてしまうほど、そこは彼を歓迎してくれた。とろけそうだ、と言いたいところをぐっとこらえて、もう一度愛してると囁き、肩口に頬擦りする。このままずっとつながっていたっていいと思えるぐらい。
「……それは免罪符じゃ……ないんだぞ……っ」
しかし、ショーンの方に負担があるのもわかっている。彼は何とか体をひねり、こちらを睨んで見せたが目の周りはまっ赤に染まっているから、何とも迫力にかけた。
馬鹿、と言う声もすでに甘い。
だから、どうにも我慢とか、そういうこらえ性とは縁遠くなってしまうのだ。俺のせいじゃない、とヴィゴは内心で開き直りながら、腰を前後させた。うねるようにショーンが体をよじるが、抵抗はない。それどころか、根元を締め上げられてヴィゴは小さく呻いた。
お仕置きか?
こういのならば大歓迎だ。
「……わかってる……、でも愛してるんだよ、ショーン」
許して、と目元、頬、それから唇にキスを。
それに舌を絡めるようにしておきながら、少し離れると顔を背けるように俯せになったショーンを追いかけ、ヴィゴは体重をかける。
へい、そこまでしておいて逃げる気か?
照れ隠しでも傷つくぞ。
「……あ……ぁ……っ」
すると当然結合が深くなり、ショーンはいよいよ素直に掠れた声を漏らしながら、昨晩から続く熱い揺さぶりに備えるように少し足を自ら広げた。良かった、避けられたわけではないようだ。ヴィゴは小さく安堵の息を漏らし、もう一度唇を耳元に寄せた。
「……愛してる」
それには、もうわかったから、とショーンは小さく頷いて、夕方まで一緒にいてくれてありがとう、と聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟き、枕に顔を埋めてしまった。
ヴィゴはその様子に感じ入らないはずもなく、喜びをショーンの太股をぴしゃりとやることで表現し(後でしっかりと説教されることになるのだが)、昨晩は酔いで不甲斐なかったかも知れない、という憶測の元、激しいライドに転じたのである。
甘い悲鳴のほとんどは枕にほとんど吸収されてしまったが、ヴィゴには全部届いていた。
もちろん、都合の良い解釈だと後でショーンはへそを曲げてしまうかもしれないが。
ああ、俺も愛してる。
最高に、幸せだ。
返事はこれが、正解なのだ。