120819 発行 『Knocker’s #9 Re-MIX』 より 再録
「どうして、チョウは僕の扱いがそんなにうまいの?」
ジェーンのその質問にチョウは答えるつもりはなかった。扱いが上手い下手の問題ではないからだ。
「僕のワガママにも付き合うし、ご機嫌取りもうまい。」
好きな食べ物も詳しくなったよね?
すごくケチなのに、僕に差し入れてくれるサンドイッチだけは高いお店のだもん。
ねえ、何で?
「落ち込んだ時だって、いつの間にか傍にいる。そんなに暇でもないよね、チョウ。」
上半身を大きく横に傾けて、どうして?どうして?と親を訪ねて回る子供のような態度でそんな質問をくり返すジェーンにやはりチョウは無言を決め込む。他の仲間がいるようなところだったら答えようがあったけれど、今は二人きりで、自分は仕事中だ。
ジェーンはまたぐずぐずと事務所に居座っているだけ。
遊び相手が欲しいなら、他でやればいい。
「ねえ、何で?」
そうでないなら、付き合ってやってもいい。
「……言葉として聞きたいのか?」
軽い気持ちで扱っているわけではないということを。
チョウはやや挑戦的な目でジェーンをじっと見つめながら、それだけを返した。
「……それは、ええと、ちょっと困るかも……。」
「だな。」
だから、俺は黙っているんだ。
たじろいだジェーンの頬が少し赤らんでいることだけで、チョウは十分満足だったのでそれで会話はおしまいにしてやることにした。
「もうすぐ終わる。」
「あ、うん。」
別に、そういう意味で言ったんじゃないからね。
そう続けられた小声は聞こえないふりをして、チョウは報告書の最後のセンテンスに取りかかった。