【ザ・コンサルタント】fired up【C/B】

えっちなお話の練習をしようと思ってました。

てっきり。
ブラクストンは「こういうこと」も兄の大切なルーティンに組み込まれるものだと思っていた。
少年時代に教えられたマスターベーションのように。
一週間に一度だとか、十日に一度だとかキリの良いタイミングで。
自分を必要以上に卑下しているわけではないが、再会後、三回目でようやく兄の家に入れてもらった日の夜、持ちこんだ強い強い酒の力を借りて十数年来の思いの丈を訴えた末、許されたこの関係に「性欲を伴う愛情」があるとは到底思えないのだ。肉親に対する愛情に関しては今は疑ったりはしていないけれど。
一滴もアルコールを摂取しない、表情も変わらない、反応すらろくに無い男の前でブラクストンがその愛というよりも執着に近いかも知れない、想いをぶつけたのは、兄がいつかまたどこかに消えてしまう前に、という焦りからだ。
必死だった。
それでも兄弟としての関係が崩壊することも恐れていたので、後で「すべて覚えてないふり」をするためにも、大量の酒を必要とした。
一度でいいから。
ファックしてくれ、とすがりつく三十も半ばを過ぎた、実弟に兄が何を思ったのかは知らない。
ただ、その夜はアルコールのせいでろれつも怪しく、すっかり弛緩してしまったような体に、兄はその想像をゆうに超えた質量を埋め込んでくれた。
それは、確かだ。
残念ながら、幼少期より色々な訓練を受けさせられたせいで、アルコール程度で記憶を飛ばすこともできず、みっともない自分の言葉も態度もすべて覚えてはいるけれど、どうやって兄が「使える」ようにしたのかは、わからないままだ。
だから、これは彼の自慰の延長、そういう扱いにしておいた方がこちらも気が楽だったのだ。
十数年。
その間、清らかな生活を送ってきたわけでもなく、色事はどちらかと言えば得意、だったと言えるだろう。魅力が全然ない、と嘆くほどでもないという自認はあったが、それでもやはり。
どうしても、兄が自分を抱ける理由がわからないままなのだ。
愛しているの掛け合いも、特殊な幼少期が元になっていることで、ファックのためにすることではないからだろう。
ただ、あれ以来、何の規則性も見出せないが、そう長く途切れることなく体を重ねている。お互いの年代からすれば、盛んな方とも言えるかもしれない。
それに、そんな中いつの間にか、同居という流れになった理由も、わからないままだ。
少しずつ家にはブラクストンの私物が増え、それを兄が咎めるようなこともなく、会話は増え、兄なりの笑顔を見られる日が増えていた。
それもまた、ブラクストンにとっては「夢を見ているのかもしれない」と思わずにはいられない、現状だった。
あまりにも、自分に都合が良すぎる。
「ブラクストン」
そんなことを考えながら、ラップトップの画面に視線を向けていた(内容は見ていない)ブラクストンに、兄は少しだけ尖った声をかけてきた。
おや?珍しいと顔を上げると、眉間に皺を寄せ、表情乏しい中でもしっかりと不愉快を伝えてきていた。目をすっかり伏せてしまってはいるけれど、間違いなくまだ関心はこちらを向いている。
「ん?どうした?」
「……五回も呼んだ」
「あ、ご、ごめん。気付かなかった」
そういえば、いつ共有スペースとなっている居間に彼は戻ってきたのだろう。刺激に慣れる訓練を未だに続けているようで、その時間はけして兄を邪魔しないようにと決めている。
時計を見ればその決まった時間より、もうすでに三十分以上の時間が過ぎている。
「……」
「兄貴?……怒った?」
顔を下から覗きこむようにすると、兄は小さく、本当にかすかではあったけれど、頷いた。
怒ったのか!
と、ブラクストンは新鮮な気持ちにもなったけれど、そのままにもしておけない。ラップトップを閉じ、ソファから立ち上がると拳を握り締めて棒立ちになっている兄の手の甲に自分の指先を添えて、しっかりと「ごめん」と謝った。
ハグしてもいい?と尋ねると、眉間に皺を刻んだまま、小さく頷く。顧客と握手も自然に(というには少し固い動きか)できるようになった兄だが、それでも俺は毎度触れる前に確認を取っている。
昔なら手酷く払われてもくじけることはなかったが、今の理由なく不確かな、でも限りなく幸福、という状況でそれをされたらとても立ち直れない。
腕と体の間に自分の腕を差し入れて、兄の肩胛骨のあたり手の平を押し当てるようなハグをする。少しずつ力をこめて、頬を肩にすり寄せると、兄の体の強張りが解けていくのがわかる。
最高の肌触りだというスウェットとくたびれたTシャツは、布越しでもしっかりと兄の体温を伝えてくれる。相変わらず子供みたいに平熱が高いんだな、とブラクストンの頬は緩んだ。
「何を考えていた……?」
兄の腕も、気付けばブラクストンの背と腰のあたりに回っている。いつになく、しっかりとした力が伝わってきて、アレ?と気付く頃には、少しかかとが浮くほどになっていた。
(まじか……!?)
スウェット越しに、体温どころではない、はっきりと形を兆したものの感触が伝わってくる。ちょうどブラクストンのへそのあたりにそれは押しつけられている。
でも、どうして?
昨日の夜も、抜いたばかりだというのに。
「何を、考えていた?」
すぐに返事をしなかったせいで、兄を苛立たせてしまったようだ。単語を区切るようにしてそう問いかけてくる彼の顔の表情は、やはり、怒りなのだろう。
ブラクストンはこんな時、何と言えばいいのか、少しの間考える必要があった。イレギュラー過ぎて、すぐには思い至らなかったからだ。
でも、なぜか。
「なんで、兄貴は……俺を抱けるのかなって……」
つい、ずっと気になっていたことを、あっさりと口にしてしまったのだ。
言うつもりなど、なかったのに。
「ほら、俺が……どうしてもって頼んだのは、俺の都合だっただろ? 夢が見たかったっていうか……そういう……、思い出が欲しかったというか……」
ずっと、好きだったからさ。
再会して、制御が利かなくなっちまったんだよ。
ごめん、兄貴の都合も考えずに。
俺、ずっとそれが気になってて……。
「だから、……兄貴が出したいって時だけ使ってくれるんでも……」
俺はかまわないから、と言おうとした。
卑屈で言っているわけではない、という注釈もつけて。
「……うっ……」
しかし、そこで言葉を切るしかなかった。兄の大きな手が、しっかりとブラクストンの顎と頬を掴んで、ぎりぎりと音が鳴るほどに力を込めたからだ。
「ブラクストン」
「……っ」
兄の唇が震えているのが、わかった。手だってそうだ。辛そうに顔を歪めて、言葉を必死に探している。
ごめん、ごめん、俺が悪かった。
困らせるつもりはなかったんだよ。
「僕は……僕は……おまえを愛していると、言った……!」
「それは、俺が言わせた……っ」
違う!と滅多に聞かない大きな声がブラクストンの言葉を遮る。目を見開いて、息を飲んで、そしてブラクストンは初めて思い至った。
まさか。
もしかして。
本当に?
「僕は……おまえを愛している……」
瞼に触れる、ぎこちないキス。強くしすぎたことを詫びるように、緩められた手の力、それからまっすぐに向けられた視線。瞬きは多くなってはいたが、それでも懸命にブラクストンのそれに合わせようとしてくれている。
「おまえを見ていると……どうしようもなくなるんだ……」
こんな風になってしまう、と途方にくれた声が耳にようやく、届いた。
そうだったのかという納得よりも強い喜びがブラクストンの胸をいっぱいにする。
愛している、が溢れてきてくらくらした。
「きっかけがなければ……こうはならなかったかもしれないが……今はなるんだ、だから……」
だから、僕は。
僕は。
そう繰り返す震える唇に、ブラクストンはそっと人差し指を当てた。それから、今できる限り一番のスマイルを贈る。
嬉しいよ、ありがとう。
本当に大好きだ、の気持ちをこめて。
「無視してごめんな……?」
うん、と頷く兄の顎先に唇を押し当てて、夢じゃないかと毎日思っていたんだ、と囁く。
「なぜ?」
「……頼み込んで抱いてもらったからさ……」
兄はブラクストンの掠れた声に、また少し機嫌を損ねてしまったようだ。怒らないでと唇の横にキスをすると、小さなため息の後、こう答えてくれた。
「……ブラクストンになら、通じると思っていた」
僕が悪い、と続ける。
「そんな……」
「いや、僕が悪い。僕はいつも……ブラクストンに甘えてしまう……」
兄はそう言ってから、もう一度ハグをやり直してくれた。そして、やはりぎこちないながらも、額はこめかみにキスをして、耳元でこう続けた。
「……五回もおまえを呼んだのは……」
こうしたかったらだ、と囁いた。
もう、その一言で十分だった。ブラクストンは、たくさんのキスが欲しいと言うように舌を出して、兄の唇に添わせた。
「……初めての時もこんな風にしてくれたのか?」
そして、兄の高ぶりをスウェット越しにさすり、くすくすと笑った。
「ああ、そうだ」
淡々とした返しでも、ブラクストンを最高に喜ばせることができる。それが兄の才能だ、と彼自身思っていたが、もしかすると自分も兄に対して似たようなことができるのかもしれない。
そう、ようやく思い至った。
「へへ……めちゃくちゃ嬉しいな……」
愛してるぜ、兄貴。
耳たぶを甘噛みして、ブラクストンはそこで優しく、甘く、囁いた。

人間業ではないぐらいの威力のある銃火器を使いこなす兄だけれど、手の平は柔らかく指先は繊細だ。
もう、十数回のファックをしてきたというのにブラクストンがそのことに改めて気付かされたのは、行為の最中にきちんと目を開いているのが初めてだったからかもしれない。
そう計画しようとしたわけではないが、思い返せば部屋を暗くしたがったのも、後ろからしてくれとねだったのも、全部自分の方だ。
(……いくらなんでも臆病過ぎたか……)
兄の顔に何らかの苦痛を欠片でも見つけたくなかったのだ。拒絶も、もちろん。臆病というだけでではない、ずいぶんと勝手だ。
「……嬉しい……」
「ん……?」
思わずこぼれた言葉に兄は形式的に相づちを返す。でも、彼の目はブラクストンの胸筋をすくい上げるようにしている自分の手指に向けられている。果物をもぐような動きにブラクストンの口元は緩み、熱い吐息が漏れた。
「兄貴が……俺に触ってくれるのが、嬉しいんだよ……」
それから、無意識なのだろう、太股に先端を濡らした兄自身がこすりつけられているのを感じられる。俺のに、そうしてと指先で誘導してやると、すぐに意を察したのか小さく頷きが返ってくる。
それぞれ持て余しそうな程熱くなっているシャフトをこすり合わせるように腰を揺らすと、息がさらに上がる。ティーンエイジャーなら、暴発しててもおかしくないほど、気持ちがいい。
愛してるという以外に、今の気持ちを伝える言葉があればいいのにと思うのに、頭の中はそれでいっぱいになる。
こんなことが、夢ではないなんて。
もしかすると、このままずっと続くかもしれないなんて。
「……ブラクストン」
んんっという咳払いに促されうっとりと細めていた目を開いてブラクストンは兄の顔をしっかりと下から見上げる。
汗が額から、こめかみを伝って流れていた。唇からは自分と同じぐらい熱い吐息が漏れている。せわしなく喉が動いているのは、溢れてきた唾液を飲み込んでいるからだろう。
俺にちょうだい、と舌を出してキスをねだると、その前に、と言うように兄が口を開く。
「……このまま、顔を見せていてくれるか……」
僕は、おまえの顔を見ていたい。
ずっと、そう言いたかった。
「……へへ……」
ブラクストンは気の利いた言葉よりも先にこみ上げてきた喜びに笑うしかできなかった。
もし自分に「親友」なんかがいたら、この話をして最高の気分だったとはしゃぐことだろう。でも実のところ、そんな人間はどこにもいない。自分には、この、世界で一番愛している男、兄しかいないのだ。
だから、喜びを彼に伝えなければいけない。
彼にもわかるやり方で。
とびきりのスマイル、これに限る。
「嬉しい」
「ああ、すごく、最高に、嬉しい」
嬉しい、ともう一度繰り返した兄は笑み崩れた弟の頬に、唇を押し当てた。まるで小さな恋のメロディだ。それがとてつもなく、胸に来る。
またすぐに愛しているで頭がいっぱいになってしまう。
そして、ねだったとおりのキスがはじまると、体の方が別の表現の「愛」が欲しくなってくる。舌をぬるぬると絡めて、溢れた唾液を飲み込みながらブラクストンは膝を立て、大きく足を開く。
今日はすぐに深いところに欲しくて、ベッドに入る前に自分でできるようにはしておいたが、それに対しては兄はあまりよくは思わないようだ。手順をしっかりとこなしていく方が心地が良いのだろう。
でも、今日は。
どうしてもすぐに欲しかったんだ。
「ン……ぅう……」
体格に比例する兄のペニスは固さと熱をピークで維持したまま、ゆっくりとブラクストンの中へと入ってくる。えらの張った先端部分で浅く抜き差しして欲しいとねだる気持ちはあったが、ブラクストンは口には出さず、少しだけ腰を浮かせる。
「はぁ……っ、あ、あに……き……」
内臓がぐっと押し上げられる感覚は、苦痛と快感のせめぎ合いだったが兄がけして自分を乱暴に扱わないというのがわかっているので、次第に後者に傾いていく。
熱い塊が下腹部に宿った様な感覚に、ブラクストンは身を震わせる。手の平を当てればその形がわかるんじゃないか、と錯覚するほどの圧迫と、充足に喉が鳴る。ずっとこうしていて欲しいと思うのは、兄の熱の塊に宿っているのが自分と同じ感情からだとわかったからだ。
「好きだ……、あにきが……好き……」
「……ブラクストン……」
兄はブラクストンの顔の横に肘をつき、顔を近づけた。目線はちらりちらりとこちらを見ているのがわかるが、ほとんどがすっかり濡れて緩んだ唇に向けられている。
好奇心で子供がよくわからないものをつつくように、兄は唇をついばむ。キスというよりも、実験めいてはいたが、こちらから誘えば答えてくれるので、最初は好きにさせてやりたかった。
そうだ、こんなキスも。
初めてかもしれない。
マスターベーション扱いにしていたのは、もしかするとブラクストンの方だったのかもしれない。
激しい抜き差しも感じるけれど、今はこの兄なりの「慈しみ」のような行為を続けて欲しいと願ってしまう。
「面白い……?」
甘噛みと息を塞ぐような深いキスとを繰り返しながら、ゆるゆると腰を揺らす兄にそう尋ねると、
「……ああ」
それから。
「目がキラキラするから……」
キスをすると、と言って兄は瞼を伏せたまま少しだけ微笑んだ。彼にとっては、最高のスマイルなのだ。
そのことをよく知っているブラクストンも微笑む。目がキラキラする、という状況が自分ではよくわからないがそれで兄が喜んでくれるのが嬉しかった。
「じゃあ、もっとしてくれよ……」
「そうする……」
ブラクストンはゆっくり足を兄の腰にからめ、腕を首の後ろに回す。ひたひたと「確かな」幸せが身を満たしていく感覚に身を委ねたかった。
汗がまざりあって体の隙間がなくなるのも、良かった。
キラキラしている、らしい瞳を時折確認するように覗きこんでくる兄にスマイルを返すのも、良かった。
「……愛してる」
「僕もだ、ブラクストン」
おまえを愛している、と至極真面目な声で返ってくるのが、良かった。それが聞きたくてしつこく繰り返してしまいそうになる。
でも、きっと。
そうしても兄は怒らないのだと思った。
ようやく、実感できた。
ブラクストンはその喜びを視線にこめて、端正な兄の顔をじっと見つめなら、彼の好奇心と愛情にすべてを任せることにした。
今夜はきっと、長くなりそうだ。

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えっちの練習なのに、えっちに入るまでに4000字越えるってどういうことだってばよ……。
しかも別にこれはえっちではなく……対話ですね。
出直してきます……!

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