※いつかちゃんと長くした話にしたいです※
彼の手作りの食事は体にも地球にも俺にも誰にも優しい。優しすぎると言ってもいい。もう少しスパイスを効かせて欲しいし、肉も分厚く切って欲しい。
まあ、でもそういうものは外で食えばいいんだが。
「ヘイ、ディーン。今日もあのガキの所へ?」
ディーンにぞっこんの青年は才気あるアーティストだ。無邪気で明るく、太陽のように笑顔がいつも輝いている。俺も太陽は大好きだ。
青年がディーンに恋心を抱いているのなら、そうだな、応援できるとまではいかないが邪魔立てはしないようにしようとは思っている。
まあ、言い聞かせてるところかな。
ただ、彼には理解が出来ないかもしれない。
「誘われたからね」
彼はローレライだ。
冗談だと思うだろう?頭がおかしくなったと思いたければ思えばいい。
ただ、確かなのは彼が甘い声と囁きとその柔らかい笑顔で何人もの男を魅了してきた、ということだ。それに、俺は彼と子供の頃出会い、その頃から二十年は経っているけれど、彼はずっとそのままの容姿で何も変わらない。
若く見えるとか、そういう話ではなく。
そのままだった。
「そうか……」
あの日、俺は海で死のうと思っていたんだと思う。6歳で親に捨てられ、何も良いことなんて一生ないと思い込んでいて、周りが何も見えていなかった。
だけれど、溺れ、沖に流されていった俺をディーンが助けてくれたのだ。そして、たくさんの引っ越しとたくさんの嘘を積み重ねながら、育ててくれた。
彼を愛しているし、彼の秘密を知るのは俺だけだけれど。
彼には話す気なのだろうか?
「ジェイが行くなって言えば、行かないよ」
ディーンは珍しくそんなことを言って少し寂しげに笑った。
「俺の望みはいつまでもディーンと一緒にいることだけれど……無理なんだろう?」
俺は彼の二回りも大きな体格で、三十代も半ば。今はいわゆる男盛りだが、あと十年少しもすればディーンと親子に見られる日も来るかもしれない。
「方法はあるよ」
たぶんね、と言いながらディーンは片目をつむって見せた。俺は意を得ずに首をかしげるだけだったが、その方法を聞き出すことは出来なかった。
ただ、少しだけ昔、子供の頃にしたように膨れ面をしてすねて見せただけだ。
いつか、聞かせてくれるといいんだけれど。
「楽しんで来いよ」
「そうするよ」
皿洗いは俺が、と殊勝に言って見せると、ディーンは「良い子」と昔そうしたように、頭を撫でてくれた。
あの頃はそれがとても嬉しかったけれど、今は水圧に対応出来なかったときのように、苦しくなるだけだった。