Based on “Take me out to the ball game”
夏コミで配布したペーパーSSを加筆修正したものです!
十七連戦明け。
時差五時間、ロングフライト。
体感時間は深夜三時半、
現在時刻、夜の十時半。
正直、限界だ。
Mid Summer blue
Based on “Take me out to the ball game”
ニューヨークメッツのベテラン外野手、ヴィゴ・モーテンセン。
その名前のおかげで、俺はJFK空港から大きなリムジンに乗り込んで、あっという間に家までたどり着くことができる。ただ、今日は運転手にいくらチップを払ったのかわからないぐらい、疲労と寝不足で朦朧としていた。
もし足りなかったらエージェントが払ってくれるさ、ごめんよ。
いつもなら若手を相乗りさせてやるのだけれど、それも無理だった。トランクから下ろされた荷物を持ち上げるだけで精一杯だったんだ。さすがに年を食ったなあ、と自覚せざるを得ない。
四大メジャーの中では長生きできるとは言え、四十を越える選手は少ない。
「……くそっ……」
近所では若干悪目立ちとも言えるスパニッシュ・コロニアル様式の家は俺の好み通りだったのだが(パドレスの選手かよ、とよく揶揄された)こんな時は少し厄介だ。
車道から、門、そこから玄関まではアーチの連なるエントランスが続き、なかなか家の中にたどり着けない。普段なら心安らぐ中庭やパティオのスペースも急いでいる時や、歩くのも覚束ないほど疲れている時はもどかしく感じてしまう。
ただいま、の声も出ずエナメルのチームバッグに詰め込まれた道具とスーツケース二つを引きずりながら俺は重たい扉をどうにかこうにか体重をかけて開いた。指紋認証のセキュリティシステムでなければ、鍵をいれて回すこともできなかった。握力が完全にいっちまってる。今なら、五歳の女の子にだってアームレスリングで負けてしまいそうだ。
こんなどうしようもないぐらい疲れている時は「お帰りなさいませ、旦那様」などと出迎えてくれる執事がいればいいと思ったこともある。
まあ、そこまでとは言わなくてもマンハッタンの中心部にあるペントハウスにでも住んでいれば、ドアマンもいるしコンシェルジュもいる。それこそ、ぐったりしててもどうにかベッドまでは運んでもらえそうな環境が当たり前のように用意されていて、チームメイトの半分はそんな暮らしをしている。
それでも、俺はただ好きなことを仕事にして得た報酬の上にあまりふんぞり返っていたくないと思っていたし、少々不便があった方が色々と油断せずに済むだろ?人間あまり楽を覚えるとろくなことにならないんだ。
まあ、結局、いわゆる税金対策で大きな家を買ったが、それこそ、昔のフラットに住み続けていたって特段気にはならなかったろうと思う。
3Aの頃はドアを開けたら二歩半でベッド、そんなところに住んでいたのだし。
もちろん、周囲にもこの「屋敷」を買った理由を税金対策と言っていた。ハウスキーパー以外の人を置かない理由も、自由気ままな暮らしの為と吹聴しておいた。多少、風変わりと言われることも多いので(不本意だぞ、もちろん)誰にも詮索されることもなく、ご機嫌な毎日、を送ることができていた。
しかし、今現在は、と聞かれると曖昧なハミングで答えを濁しておきたいところだ。
もし、最近の税金対策とは思えないぐらいのとんでもない出費の数々を知られれば、あまり縁のないゴシップ記者だって記事にしたがるかもしれない。
まあ、悪いようには書かれない程度には品行方正なつもりだけれど。
たぶん、な。
「……どこだ……?」
大きな音を立ててドアが閉まっても家の中は静まり返っている。ホールも十分明るくはあったけれど、人の気配がどこにもない。
俺はずるりと肩から荷物を床に下ろし、スーツケースと一緒にその場に置き去りにして、のろのろとした動きではあったが、あたりに注意を配りながら歩き出す。
空き巣の類いを疑っているのではない。
この家のもう一人の住人を探しているのだ。
つまり、その住人こそが「とんでもない出費」の理由で、人を雇い入れない理由でもあった。
「……まさか……」
もう指一本動かすのもやっとだと思っていたが、心当たりにはっとなった俺は、外野手にあるまじき足のもつれに苛立ちながら中庭に向かって駆け出した。
「ショーン!」
ハウスメイト。
同居人。
居候。
一つの家に二人の人間が暮らしているという状況は色々言い方があるだろうが、俺自身は彼のことを「恋人」だと思っていたし、彼もきっと同じように思ってくれていると信じている。
たぶん。
いや、絶対に!
「ヴィゴ……?」
ショーン・ビーン、彼はイギリス人のピアニストだ。色々な事件や事情があり、彼はアメリカに渡ってきた。美しい琥珀の輝きを持つ艶やかなブロンド、甘さの残るミルキーグリーンの瞳、長い睫に挑戦的な笑みをたたえた薄い唇。
一目惚れという言葉すら生半可に聞こえるほど、俺はでたらめになってしまった。家以外では経験がないほどの「大きな買い物」をしたも、その時のことだ。
今でも顛末を話せば大笑いされるぐらいに、何でもした。それはこれからも、同じだと神でもマムにでも何にだって誓える。
愛していると囁き合うようになってから一年以上は経つが、今もその気持ちは変わらないと胸を張れる。ただ、彼のことを「手に入れた」という感覚はどこにもない。
もちろん、彼は「トロフィー・ワイフ」ではないし、彼自身の道を迷いながらも、しっかりと歩んでいる。ソロ・ピアニストとしての彼のコンサートは回を重ねるごとに評判も上がり、色々なところからオファーがあるそうだ。
だから、なのだろう、わかってるさ。
未だに、彼に伝えられない想いを抱えていた時と同じような焦燥感が、胸の奥にくすぶっているんだ。
いや、恥も外聞もなく、がむしゃらになっていた時の方がずっと楽だった。失うものがなかった時と、失う恐怖を感じているさなか、とは訳が違う。
ショーンはきっと知らない、俺が彼の後ろ姿を見ているだけで、胸が締め付けられるように痛み、息をするのが苦しくなる時もあるのだということを。本当のところは遠征全部についてきて欲しいぐらいに思っていることを。
チームで一番、リーグで一番、チャリティ向きの選手だと言われている俺が、こんな危険な傲慢男の思考に悩まされるなんて、考えたこともなかった。
ショーンが嫉妬深い男に何度も酷い目に合っているのを知っていながら、本当に最低だ。
ああ、何なんだ、まったく!
「な、なんでプールに……!」
そんな情けないこと(というか、最低男の部類だ)当然、表に出さないように努力をしていたが、今日は無理だった。
俺はもう少しで死ぬってぐらいに疲れていたし。
彼がプールの中にいたから。
夜の十時半に!
「明日の朝、帰ってくるって言ってたじゃないか」
ニューヨークの夜は夏とは言え、水に浸かっていたいほど暑苦しいわけではない。だから、当然のようにプールは温水管理をされているので、ショーンの行動がどうかしている、わけではない。
白い肌がほんの少し上気しているように見えるのも、水温が高いせいだ。
そんなことはわかっている。
しかし、疲れで痺れたようになっている脳では、到底まともに考えることも出来ず、俺は何一つ、言葉を返すことが出来なかった。
「……」
強く唇を噛み、強い視線でショーンを見たが、にらみつけるまではいかない。そんなこと、出来ない。
逆にその視線を受けて、ショーンが返したのが、まさに、それだった。
彼は簡単に、こちらを睨むことが出来る、射貫くことが出来る。まるで火花が見えるような激しさで、ナイフのような鋭さで。血が流れないのが不思議に思えるほど、胸が痛い。
彼は、恋人だ。
自分を愛してくれている。
「もういい……」
残念ながら、その愛の形は、きっと自分とは違うのかもしれない。
抱えていた漠然とした不安が、はっきりとした形を取っていくように思えた。何を言っているんだ、と冷静な自分が喚いているのはわかっているんだけど、それを受け入れることが出来ない。何が「もういい」なのかもわかっていないくせに、馬鹿野郎が。
俺はどうにか掠れた声でそれだけを返すと、ショーンに背中を向け、その場を離れることにした。
ショーンのイギリス人らしい悪態が背中の後ろの方から聞こえたが、振り返ることなどできない。
そんな強さがあれば、もう少し上手くやれたに違いない。
それもまた、わかりきったことだった。
*** *** ***
「なるほどな」
人は疲れるとろくなことを考えない。その典型の行動を目の当たりにした俺は一つ大きなあくびをした後、プールから上がることにした。
きっとまた「俺は愛されていない」みたいなことを考えて、一人落ち込んでいるのだろう。
大馬鹿野郎とか罵るのは簡単だ、実際そうなのだし。さっきはもっと酷い言葉を投げた気もするけど、まあ、それぐらいは当然権利の内だ。つまり、それでおしまいにしてしまってはいけない、と俺は考えているってことだ。
感謝しろとは言わないが。
幸いと言うべきなのか、残念ながらと言うべきなのか、俺は本当に本当にちょっとした事件記事になるようなことも度々あるぐらいの出来事に悩んでいた。怒ってもいたし、諦めてもいた。
だから、それはもう本当に色んなことを考えた末に彼を愛しているということを理解することができたし(妙な表現なんだが、事実そういう感覚だった)、今もその気持ちは変わらない。
それなら、誤解を放っておかないのも愛情表現の一つだと思うのだ。
内心ではやっぱり、最上級の「よくない言葉」で怒鳴りつけたい気分だけれど。
「……ヴィゴ?」
ゆっくりシャワーを浴び、濡れた髪を乾かして、しっかり目薬も差し、エージェントのミランダから差し入れしてもらった保湿クリームをしっかり塗り込んだ(そういう趣味があったわけではないが、ステージ映えやポスター映えのために致し方なく)俺はパジャマではなく、乾いたバスローブを羽織った。
あざといサービスだと彼はまた怒り出すだろうか、そう思ったが大きなベッドに俯せになったままのヴィゴはこちらを振り返ることもなく、小さく唸った。
言いたいことがその言葉にならない音に込められているような気がして、俺は上を見上げるようにして、それからわからないように静かにクビを横に振った。
「ヘイ……、ヴィゴ……」
ベッドに腰をかけ、俺はヴィゴの髪をゆっくりと梳いた。ひまわりの種の殻がくっついたままの間抜けさを笑うこともなく、一番繊細なピアニシモを弾くように、慈しみをこめて続ける。
この俺が、誰かの世話を焼くなんてことは今までなかったんだぞ、と言って聞かせてやりたいが、それもいい年をして威張るほどのことでもないから、黙っておこう。
首回り、肩に入っていた力が徐々に緩くなっていくのがわかる。ははあ、ずいぶんと若ぶってはいるけど、白髪もあるじゃないか。過酷な勝負の世界だからな、あってもおかしくない。大丈夫、おまえの髪がなくなったって俺はおまえを見捨てやしないよ。
そういうのを言ってやれば良いんだろうけど、人には向き不向きがあるんだ。俺を昔から知っている人間からは現状でも十分に驚かれてはいるのだけれど。
昔からの知人の話をしても、機嫌の悪くなる(最近は特にな)相手にはそれも言えない。ほんと馬鹿野郎だ。
「ちゃんと連絡しろっていつも言っているだろう?」
耳元で囁いてやると、ヴィゴは赤ん坊がむずがるように身じろぎする。返事のかわりのうなり声も聞こえるが、やっぱり言葉にはなっていない。
「俺だって、おまえが帰ってきた時に出迎えてやりたかったんだぞ?」
耳たぶ、頬、あごまでの輪郭に鼻先をこすりつける。拗ねているから突っ伏しているだけではなさそうだ、ひどく疲れているのだろう。もう寝てしまってもかまわないのだけれど、その気もないようだ。
「……お、驚かせたくて……」
掠れた声は震えているし、顔をこちらに上げようとすらしないのはその言葉が嘘だからだ。もしくは、今、気がついたのか?無意識化の「くそったれ嫉妬心」に。
恋は人をでたらめにするのよ、なんてリヴやミランダは言うけれど、あんまり酷くなるとまるでジキルとハイドだ。もちろん俺はおまえが世界一俺にとって優しい男であることも知っている。
たまにでたらめになるのも、愛しいと思っている。
だけれど恋の世界にもルールブックは存在していて、それを守らなくちゃ長くは続けられない、そうだろう?
「どうかな?」
ほら、良い子だ。おまえはスポーツ選手のわりにとても頭がいい。
「……」
「今まで一度だって浮気したことないのに、すぐ疑うだろ?」
俺は今まで色んな人や出来事から遠く逃げてきたし、彼からも一度離れた。だからもしかすると、それを怖れているのかもしれないな。
戻ってからの日頃の行いは良い方だと思っていたけれど、彼の不安を払拭できるほどではなかったということか。
それは少し、寂しくて。
少し、腹が立つ。
「ショーンは……すぐ、愛されてしまうから……」
顔を特注の枕に伏せたまま、ヴィゴは彼の拙いロジックを伝えるつもりらしい。
「ばか……」
後頭部を軽く叩いて、俺は大げさにため息をつく。それでもうんざりしたわけではないと伝えるために、こめかみにキスをくれてやった。これならわかるだろう?
「夜のプールなんて、……セクシー過ぎる……」
いや、どうかな。
自分で何を言っているのかもわかっていないぞ、これは。
「おまえが日に焼くなって言ったんだぞ?」
どこの専制君主様か、と言いたくなるような台詞も、情けなく寄った眉に、すがるような瞳を見ながらなら腹も立たない。
だから、ほら、こっちを見ろよ、カウボーイ!
「話し合いは明日。おまえが正気に戻ってからだ」
ヴィゴの隣に寄り添うように寝そべり、顔を上げるように促す。それでも愚図るので短気な俺は肩を掴んで勢いよくひっくり返してやることにした。
同じ男だ、このぐらいは訳ないんだ。おまえは深窓の姫君をこの屋敷に囲っているわけじゃない。俺は俺の頭で考えて、感情に嘘をつくこともやめて、ここにいるんだ。
つまり、ここにいたいから、おまえの側にいたいから、ここで暮らしているんだよ。ダーリン、そのぐらいは理解してくれよ。
俺を愛しているのなら。
「泣くなよ、ばか……」
酷い顔だな、おい。
言いたいことはいくらだってある。被害妄想を拗らせた恋人に、俺はもう少し怒ったっていいぐらいだ。
それでも、彼の真実はよくわかっている。
「ショーン……愛しているんだよ……」
つまり、これだ。
「そのことを一番知っているのは俺だよ、世界で一番の大馬鹿野郎」
潤んだ目を見開いた最愛の恋人に、俺はとびっきり甘いキスをくれてやることにした。もう、もってあと数分の意識だろう。
彼の体がこんなにも力なく、ぐにゃりとこちらのなすがままになっていることなんて初めてのことだったから。顔色も良くないし(というかほぼ土気色だ、酷い)唇もからからだ。後で水を口移しで飲ませてやるから、もう眠ってしまえ。
「おやすみ、ダーリン」
世界で一番。
俺はおまえを愛しているよ。
ああ、本当に、本当だ。
*** *** ***
「ショーン……?起きたか」
俺は寝室の天井を見つめたまま、おずおずと隣の恋人に声をかける。目を覚ましてから五分ほどで、昨日の夜のやりとりがフラッシュバックでも起こしたかのように蘇ってきて、俺はドーピング検査が心配になった。何かまずい薬でも盛られたんじゃないかってぐらい。
頭がどうかしてたんだ、という言い訳もしがたい。
俺は、正真正銘の最低最悪野郎だ!
ああ、神様、どうすれば良いのでしょう!
「ああ、起きた」
「……あの、俺……」
ショーンは謝られることがあまり好きではない。謝れば謝るほど怒らせてしまったことも何度かある。だから、ええと、こんな時はと考えながら天井を見ていると、その視界にブロンドが、そして愛するショーンの顔がカットインしてきた。
あれ?
わ、笑ってる!?
「気分はどうだ?」
そしてあの奇跡みたいなきれいな指で、俺の顔を撫でてくれる。こめかみのあたりをそっと押して、額や頬の高いところをマッサージだ。
すごく、気持ちがいい。
もしかするとまだ俺は眠っていて、俺の考える一番最高に都合の良い夢を見ているんだろうか?
だって、俺は。
彼に酷い疑いをかけてしまった。疲れのせいだと言い訳が出来ないのは、心の片隅でずっと不安に思っていたことで、本音と一緒だからだ。
「……ダイエットしようと思ったんだよ……」
ショーンは俺の体を跨いで、顔をマッサージしながら三回キスをしてくれた後、頬をほんのりピンク色に染めながら、視線を少し横に外してそんなことを言って、ぺろりと唇を舐めた。
「駄目だ、駄目だよ、ダイエットなんて!」
しまった、またやってしまった。彼は俺の所有物ではなくて、彼は彼の自由があって……ええと、だから……。
もう少し眠った方がいいかもしれない。何なら医者を呼んできてもらったほうが。
俺はどうしたら君に対して誠実で、君に対して完璧な、君に愛される恋人になれるのだろうか?
君を失いたくないと思うばかりではなくて。
「いいか、よく聞け」
ショーンは俺の動揺に気がついたのか、呆れたような表情を見せ、指先で左右両方の頬をつまみ、横に引っぱった。
「ひゃい……」
痛みはない。
彼の繊細な指先は、こんなちょっとしたお仕置きですら、最良の力加減に出来るらしい。
「俺を信じろとは言わないが」
ここで、額にキスを一回。
「……俺はおまえを愛してる……、世界で一番な?それは絶対だ」
そうだ、ショーンは俺が意識を失う前にそう言ってくれた。彼のミルキーグリーンの瞳は俺しか見ていなかった。
そして、今もそうだ。
うん、そうだ、ずっと……彼が帰ってきてからずっとそうだったじゃないか。
「愛してる……」
「当然だろ?」
にやり、と片頬を上げて笑ったショーンに俺は涙が出そうになりながらも何とか、笑顔を返すことが出来た。
「ダイエットは続けるぞ?衣装を買い直すのが面倒なんだよ」
「あ、ああ、そういう……」
「そういうこと」
下手なウィンクに、俺はだらしなく頬を緩めて、ショーンの腰のあたりに手を回す。このふかっとした弾力が最高にたまらないのだけれど、カマーバンドをぎゅうぎゅうしめつけるのもかわいそうだし、仕方が無い。
「リヴと飯一緒に食うと駄目だな」
「ああ、それはわかる」
で、とショーンは目を細めてこちらをじっと見つめた。
「ん?」
「今夜は一緒にプールに入るか?」
即答の代わりに俺は勢いよく起き上がり、ショーンの体を力いっぱい抱きしめた。
なんて優しいのだろう。
なんて愛しいのだろう。
もしかすると、ショーンは何らかの神様だか女神だかの生まれ変わりかも知れない。俺のいないところで天使の羽根を広げているのかも知れない。
ああ、その方がずっと納得が行く。
「愛してるよ、ショーン」
「ああ、俺もだヴィゴ」
そんな彼の腕は俺の背中に周り、まるで泣いていた子供をあやすように、優しく、優しく撫でてくれた。
あんなにもささくれだっていた不安がほろりと崩れて行くようだった。
「……まずは、風呂だな」
「……はい……」
それから、朝食だ、と言ってショーンは笑った。俺が疲れと汚れを洗い流している間に、バスローブを引っかけたまま、ピアノを弾くのだろう。その響きはきっと優しくて、楽しげだ。
そしてもう一度キスをしてから、出発だ。
甘いパンケーキを食べるといいよ。
ダイエットは、明日からでいいさ。
協力するから!