Steave/Danny (ちょっと大人向け)
MP22で配布したペーパーより再録。
仕事が早く上がり、久しぶりに(実際は四日ぶりだが)ゆっくり夕飯でもどうだとダニーを誘うと、彼はその顔に「嫌だ」と大書きしてあるような表情を見せた。
スティーブとしてはダニーがそんな顔を見せるような理由に心当たりがなかったので、小首を傾げて促すと、ダニーは表情をそのままに小さく舌打ちを返した。
「機嫌が悪いのか?」
「見てわかんない?」
わからないこともないが、とスティーブは言葉を濁しながらも実際のところさっぱりその理由がわからないので、肩をすくめる程度にとどめた。
今日一日、特に何があったというわけではなかった。それでこの様子だとすると、どうやらダニーはずいぶん前から何かに腹を立てていたようだ。
それでも仕事に一切の支障を出さないところがダニーらしく、半分はその「まとも」なところに感心するのだが、もう半分では寂しさも覚える。
「で、どうする?」
それでも思い着いた提案を引っ込めるつもりのないスティーブは少しの間をあけて、再度尋ねる。一応あたりを気にするように視線を巡らせるが、すでに他のメンバーはオフィスを出ている。ダニーがいつもの癇癪を起こしても(ダニーが言うには説教ということらしいが)、誰に聞かれることもない。
しかし、だ。
「はあぁ…………」
ややあって返ってきたのは聞こえよがしの重たいため息と、
「……俺も車で来てるし、おまえん家でなんか食わせろよ」
想像とは少し違っていた台詞だ。てっきり「わかったよ!」と怒鳴りながらも提案を受け入れてくれるか、もしくは完全に交渉決裂するかのどちらかだと思ったのに。
「ん?」
スティーブはその驚きをひょいと上げた眉で表現したが、もう一回、長い長いため息をお見舞いされてしまう。
「あのさあ……?」
ダニーはこちらへ両の踵を交互に引きずるように、のったりと歩きながら近づいてきた。ここまで億劫がられると多少傷つきはするが、スティーブは彼の次の言葉を待つことにする。
ダニーは甘やかされてかわいがられている家犬が見知らぬ人間を警戒するように(つまり、愛らしいのだ)、低く唸り、
「四日前、おまえ、あの、いつもの店で盛ったの、忘れたとは言わせねえぞ?」
こう、すごんだ。こちらの顔を指で差したいところを堪えているのだろう、拳をぎゅっと丸めていたが、スティーブはそれには気付かず、ぱあっと表情を明るくした。
「……あ……、ああ!」
ようやく合点の行ったスティーブはダニーの今ここで殴ってもいいんだぞ?という凶悪な視線を顧みず、思わず破顔してしまった。
「喜ぶところじゃねえから!」
と、いう抗議も、さらに良い笑顔で受け取り「おまえねえ……」と、毒気を抜かれたダニーが頭を抱えるところまでを見守り、
「忘れるわけないだろう?」
少し腰を曲げ、ダニーの背に腕を回し、耳元でこれ以上ないぐらいには甘ったるく囁いた。
「……あ、しまった」
瞬時にして形成逆転を悟ったダニーの声に、スティーブはにんまりと笑うと、片目を悪戯っぽくつむって見せた。
俺は今から思い出すぞ、とでも言うように。
それも、逐一、一部始終を。
*** *** ***
事件解決後の酒は確かに美味い。今日は特に運動量も多くて、気温も高くて(いつも暑いがいつも以上に!)大汗をかいたから余計にビールが進んだ。
それから冷たくて甘い酒、スパイシーなBBQに、それから、ええと……、とダニーは思い返そうとして、少しの間、自分が眠ってしまっていたのだということに気がつく。
「わりい……」
ふわっとあくびをして、連れであるスティーブに謝ると水でも頼むかとその場で座り直そうとするが、上手く行かない。太股のあたりを、スティーブの手の平が押さえつけているからだ。
その力は思った以上に強く、そしてその手の平は燃えるように熱かった。
「ん……?」
怒ったのか?と相手の表情を伺うべきではなかった。ダニーはそこにあったスティーブの眼差しに殺気すら感じて、ごくりと喉を鳴らす。
「……ダニー……、ちょっと来い」
娘への愛だけでハワイにやってきて、なんだかんだあって(とても語り尽くせない)、この男、スティーブ・マクギャレット少佐と、測らずも、ちょっとした仲になってしまったのだけれど、ダニーはそれで初めて知ったのだ。
行きすぎた欲情が、こんなにも殺気じみているなんて。
今までのガールフレンド達に、ゴメンネ、と言って回りたいぐらいの気分にさせられるぐらいに、結構、本気で、怖い。
ましては相手は素手で人を殺せるぐらいに訓練されている男だ、これでハンサムでなければ、実は甘えん坊とかでなければ、銃を使ってでも逃げるところだ。
あと、まあ、その、なんだ。
惚れた弱みってほどでもないけれど、命を張った現場でのパートナー関係が続けば、それなりに信頼関係は生まれてくる。
だから、物騒な顔で手首を掴まれても、ホノルル警察のバッジを店主に見せた上で(腰に引っかけていたのを取られた)、更に清掃中の札をトイレの入り口にひっかけたところに連れ込まれても、本気では怒れないのだ。
もし誰かに二人の関係を相談していたとしたら(気付いている人間はいくらかいるが)、甘やかし過ぎと怒られることだろう。
「我慢できない?」
ダニーの控えめな質問にスティーブは真顔で、首を横に振る。それはもう、すがすがしいほどきっぱりと。
個室のうち、一つに入り鍵を閉めればほとんど密着しているような状態だ。
荒々しい吐息と、ジーンズ越しにごりごりとすりつけられる彼の自慢の逸品の状態を察するに、当然とも言えるのだけれど。
(何がスイッチかわかんねえんだよな、ったく……)
バージンでもない、先週末も娘と遊んだ後は彼の家に押しかけて、寂しさを埋める目的でセックスしたぐらいだ。減るものではないけれど立場ってものがあるだろう!
やりたい盛りのティーエイジャーでもあるまいし、とは思うのだけれど、駄目だ、こうなったスティーブを止めることなんて、出来た試しがない。
ダニーはため息を一つ着いた後、スティーブのジッパーを下ろしながら、用もないのに便座に座ることになった。
「……うっわ、凶悪……」
ずるりと引っ張り出すこともなく表に出てきたペニスに思わずそう声をかけたダニーは後頭部を押さえつけられる前に(興奮したスティーブの悪い癖だ!)、先端を口内に招き入れた。舌の広いところで、なめ回すまでもなく、すぐに苦さが滲む。どくどくという脈も唇越しに、労なくわかるほどだ。本当に、凶悪、その一言に尽きる。
こんな状態で人の寝顔を見ていたのだとしたら、一般人なら逮捕でいいところだ、とダニーは恨みがましく、スティーブの顔を見上げた。
しまった。
うん、これ、そうなるよね。と、(経験も当然あるわけで)気付いた時には、もう遅かった。寝起きで潤んでいた目で、口いっぱいにペニスを頬張りながらの、上目使いだ。
男の本能を暴走させるのに必要な要素がこれでもか、と詰まっていた。
当然。
あごがはずれそうなぐらいに、深く突き立てられる羽目になった、わけだ。唇がめくれあがるほど激しく腰を振られ、ダニーは苦しさに涙をにじませる。
歯を立てないように気遣い、息継ぎをどうにかしつつ、喉を開こうとして、逆に嚥下するような動きになったことで、さらにスティーブを喜ばせてしまった。
何もかもがダニーにとっては不本意だったが、頭上から聞こえてくるどうしようもなく荒々しくなった呼吸と、ぼたぼたと落ちてくる汗、ダニー、ダニーっ、という切羽詰まった声を聞けば、やっぱりどうしてか、それなりに許してしまうのだ。
甘いな、俺。そう後悔しても、自分がやっていることだから仕方がない。
「……ダニー……?」
まだ、達する気はないようだ。スティーブはあと一歩、のところで動きを止めた。唾液なんだか、カウパーなんだかわからない、苦いものをダニーは一度ごくりと飲み干して、顔を引いた。
「最後までやる気か……」
濡れた唇を手の甲で拭って、無駄だとわかっていながら、そう尋ねるとスティーブは無言を返す。目の周りが真っ赤に染まっているし、目付きからしてかなり、来ている。
「……しょうがねえなあ、もう!」
ダニーはこうした時の備え、のために財布の中に常備するようになった、ゴムとローションのパッケージを取り出すと、スティーブの手の中に握らせる。
おかげでかわいいかわいい娘が財布で遊ぶようなことがないように、必死になる羽目になった。
まったく。
まったく!
「ご褒美もらったガキみたいな顔しやがって……」
そんな風な嬉しそうな顔を見れば、まあいいかな、と思ってしまうのだ。男のバカなところをよくわかるのも、バカな男と、いうわけなのだろう。
娘には絶対に、絶対にこんな男を近づけさせはしないけれど。
(……くっそ……なんて長さだよ……っ)
壁に手をつき、下半身を剥き出しにしたダニーの中に、すっかり収まったスティーブの質量は、暴力的なほどで、喉を反らし、歯を食いしばるしかない。
それでも、腰をがっつりと掴まれて、首筋に歯を立てながら、抜き差しをされるとすっかり感じてしまうようになった体は正直だ。
「は……はあ……っ」
ダニーは下半身がぐずぐずになってしまいそうなほどの熱を感じながら、突き上げられるのに任せるだけではなく、腰を揺すってしまう。
「ダニー… っ、ダニー……」
声を出すなよ、と言いたいが、それも出来ない。ただただ、荒々しく息をつき、溢れる汗もそのままに、スティーブを存分に暴れさせている。
足が浮くことも、腕では支え切れず、顔を壁に押しつけるようなことになっても、これをレイプだとはとても思えない、むしろ好きにやって構わない、と思えてきてしまっているのは少しばかり危険だと思う。
太股の間からは二度ほど、お互いの精液が混ざり合い、伝っているのもわかる。どんな顔をして店を出るのか、今はまったく考えられないのだけれど。
「うぅぅっ……畜生、そこだ……!」
そこだよ、とシャウトすると、何でも出来る賢いスティーブは、確実にそこを捉え、激しく掘削するように腰を揺すった。
「……くそ……っ、あっあ……っ」
酔ったところを揺さぶれて、頭がくらくらするが、それ以上に正直言うと、良すぎてどうにかなりそうだった。両手で体を支える必要がなければ、自分のペニスを握りしめて、堰き止めてしまいたいぐらいに。
「……っ」
ああ、でも、そろそろ後ろの坊やが限界なのだろう。出してしまえば、正気に戻ってぶん殴ってしまいたくなるかもしれないが、仕方がない。
明日には指の跡がくっきり残るだろうな、と思いながらダニーは後はスティーブのやりたいように任すことにした。
「……いいから、やれよ……」
また、首筋に歯を立てられる。太股をぴしゃり、とやりたければやればいい。丈夫に出来ているから、大丈夫だと言葉にするかわりに、狭い中でどうにかもう少しだけ、大きく開いてやった。
その後はもう、言葉に出来ない。
「……ダニー……っ、ダノ…!」
暴走車のようになった動物は、どうしたって止められないのだから。
*** *** ***
「………はあああああ………」
一部始終を反芻してすっかりご機嫌、かつ、ダニーにとって望まない方向にシフトチェンジをしたスティーブは、たまらずダニーの前髪の生え際のところにキスをした。
ダニーが大声を出したり、喚いたりして怒っている時はすぐに許してくれる甘やかしだとわかっているからなのだが。
「なんでこんなの許しちゃうんだろうね、俺はさ……」
ほら、この通りだ。
彼も同じように思い返していたのだろう、耳たぶが赤くなっているし、四日前と同じように目も潤み始めている。本人は気付いていないようだけれど。
それに、受け入れてくれたのはダニーだ。
「今日もおまえはかわいいな」
慈しみいっぱいの眼差しにもダニーは、ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らすだけだったが、腰を撫でたり、臀部を鷲掴みにしてもさほどの抵抗は見せない。
それを良いことに、スティーブは今夜も自分のロジックを存分に展開することに決めた。大丈夫、ダニーはとても気の利く男だから、すぐに理解してくれるはずだ。
二、三発ぐらいは殴られてやってもいい。
「俺は慎ましい男だから、今夜はベッドでお願いっていう誘いなら、もう少しわかりやすく言ってくれないとわからないじゃないか」
あやうくサインを見逃すところだった、とウィンクをして今度は恭しく額にキスをした。
「……スティ……おま……」
唖然としている顔もまた愛くるしい小動物のようでお気に入りだったりする。シーツも昨日洗っておいたし、酒も十分にある。
うん、問題ないな。
「おまえさ、やっぱり病院行ったほうがいいよ……?」
このセックス・アニマル!
ダニーはわあわあとそんな風にわめきながらも体を離すわけでもないので、こんなかわいい「恋人」(と、言うと心底嫌そうな顔をするのであえて口にしないが)がいて、俺は幸せだなあ、とスティーブは神に感謝するのが今一番適当なことだと思った。
車は置いていけよ。
どうせ、泊まって行くんだから。
「行くぞ?」
ぐいっと腰を抱き寄せて歩き出すと、ダニーは中指を立てて、ご丁寧にFワードを口にしたが、それもスティーブの耳には、「カモン・ダーリン」ぐらいにしか聞こえないので、まったくもって威嚇にはならなかった。
「……俺のバカ……」
数分後の駐車場では、スティーブのご機嫌な鼻歌と、ダニーの情けない呟きがかすかに響いた。
それでもダニーがスティーブを振り切って、自分の車に乗り込むようなことはなかったのだけれど。
————————————-
ペーパーラリーの参加、ということでちょっとHなSSをお送りしましたv
甘やかす受けと困った攻めが大好きなので、スティーブには思い切り好きにやってもらうことにしました。
かわいそかわいいダノが大好きですv
次はもうちょっと重量感のある長めのお話にチャレンジしてみようと思っておりますv
お付き合いくださいまして、ありがとうございました!