ゴールデン・ボーイ/マイケル・ナーヴァ/創元推理文庫

真の正義のシンボルは、目隠しをした女神ではなく時間なのだ。

誰よりも法の下での正義、を貫く彼がこぼしたこの台詞、全体に染み渡っている哀愁がここにもぐっと表現されています。主人公のヘンリーはスパニッシュ系な んですけど、この本を読む時のBGMはポルトガルのファドに限る、と思います。ノスタルジーと言いようのない哀愁、そりゃあ推理モノなので事件は解決する し新しい出会いもあるんだけど、やっぱりこの人幸薄い…(汗)今まで読んだ探偵系(この人は弁護士ですが)一番哀しい主人公かも……。この台詞も弁護を担 当していた少年の悲劇に際してこぼす台詞なんですが、彼も大きな傷を色々追って前作の「このささやかな眠り」以降、アル中になり(泣)更正施設に入ってた りしてて、それでも友人の頼みで表舞台に復活して、また弁護士として自分の仕事に誇りを持ってやっていこう、と思ったのはやはり時間、のおかげなんですよ ね。
しかし、その時間が古い友人を内側から変えてしまっていた。お、重い……。イメージでものを言うわけではないのですが、作中に出てくる舞台女優が言っていました。

「みんなやたら愛にがつがつしているように見える」

私も色んな本や映画を見てるとそんな印象を受けていました。ヘンリーとその友人はいわゆるその真逆を行くように見えていて、実際恋に落ちるととても誠実で (時折真面目過ぎて駄目になるパターンもあり)ひたむきです。友人ラリーは哀しいかなパートナーの裏切りに合い、パートナーは自殺してしまいます。うー ん、重い……。切っても切り離せないHIVの問題が推理小説の根底に流れております。ヘンリーの傷ついた心を癒してくれるはずの新しい恋人も陽性反応を示 していて……、と。先に進むのが怖いくらいに精神的に重いのですが、話がこれまた面白く次へ次へと読み進んでしまうので困ってしまいます。

作 中に詩や物語を挿入するのがこの作者さんの癖?なのでしょうか。今回は何と「エドワード2世」です。ブレヒト版の脚本と舞台そのものをモチーフにしてるん ですが、これが結構重要。なーるほーどねー、と察しのよくない真弓は最後に大きく頷いてしまいました。ちょっと前半と後半の展開の差が気になりますが、 やっぱり面白かったです。推理もののレビューって難しいですね。

さて、ヘンリーの恋人、ジョシュ・マンデル君。すっげー………かわいいで す。テリさんの「殺し屋マックス~」のジェレマイアより影もあって若くて美しいんだけど、ひたむきなところは似ているかもしれません。若さながらの怯えも あれば勇気もあり、すぐに考えごとの海に沈んでしまうヘンリーを癒そうとするあれこれはしびれます。でもやっぱり若いからわがままとかも口にするんだけ ど、それもまたかわいい。えーん、ヘンリー、もう弁護士やめてどっかで二人仲良く暮らしてよ!と無茶なことを言ってしまいそうになります。うぅぅ(泣)
「愛 してるよ。」と言えるまでの課程が、本筋より見事なのはマイケルさんの本領なのかな?今後はストレート小説(ミステリーではないってことで)を書くのか、 本業の弁護士に専念?するのかわかりませんが、ラブストーリー書かせたらたまらんだろうな、と思います。最近新刊ないみたいだし、弁護士やってるんだろー なー、残念。

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